侍BOYS!!〜一番ヶ瀬高校剣道部〜No.1-2
「何?3組まだなんかあんの?」
「委員会役員的な事がまだ決まってねんだよ」
「オレら何もする気ないけどねー」
「フケればいーじゃんか。早く剣道部見に行こうぜ」
「…そうしてぇのは山々なんだが、担任がまた今時熱い先公でよぉ」
「フケたらどこまでも探しに来るよねあれは」
「うっわ。めんどくせー」
「て訳だから、シュウ先行っててくれ。僕らも終わり次第合流すっから」
「うぇー、1人かよー。心細ぇーよーう」
「シュウなら大丈夫だよ。結構図太いから」
「ハル、励ますんならもっと優しい言葉をかけてくれ!」
***
宮川柊は、キョロキョロと辺りを散策しながら、目的地へと歩を進めた。
目的地である剣道場は、校舎を出てすぐ左隣に建てられている。
内ぐつのまま校舎を離れて数秒程歩くと、周りは木々に囲まれ、閑散とした雰囲気を醸し出している建物が目の前に現われた。
『一番ヶ瀬高校剣道部』
道場の前までやってくれば、1番に目に入ってくるこの看板。
古めかしげな木の板に墨で書かれた無駄に達筆なそれは、昔の漫画等によく出てくる、道場破りが背中に沢山担いでいるあの看板達を思い出させた。
ガラリ。
「こんちわー…ス」
ステンレス製のスライド式扉を片手で開け、中に少しだけ頭を入れて声を掛ける。
中からの返答はない。
「…おっ…邪魔しまーす…」
左右に忙しなく視線を送りながら、何故か忍び足で室内へと侵入する。
道場の玄関に入れば鼻に入ってくる特有の匂い。
汗と防具の匂いが入り交じったような特殊臭。
柊にとってはとても懐かしい匂いだ。
内ぐつを揃えて脱ぎ、靴下のまま道場前まで足を進める。
道場に入る前には一礼。
3年前までの習慣が、未だに体に染み付いていることに驚きを覚えた。
一歩、道場に足を踏み入れる。
床板が小さく軋み、キシリと音を立てた。
そこからまた二、三歩進んで立ち止まり、改めて道場内を見渡す。
入ってすぐ右手前には神棚。最近では“道場に神棚”、というのは無くなってしまったようで、神棚のある道場も珍しくなってきたが、どうやら此処の道場は結構古くに建てられたものらしい。
正面には『気剣体』と書かれた長方形の額縁が誇らしげに飾られている。