想-white&black-I-1
「花音」
優しい声が私の名前を呼ぶ。
振り向くとそこには明るく華やかな笑顔を浮かべた麻斗さんがいた。
「麻斗さん……」
「また庭とか見てた?」
「何だか眺めてると落ち着くので」
「そっか」
以前いた所に比べれば規模は小さいながら、結城家の別邸という屋敷も立派な造りで庭もきちんと手が行き届いているようでいくら眺めていても飽きないほど美しかった。
ここに身を寄せるようになってから五日、一日中外に出ることもなくこうしてぼんやりとしている。
麻斗さんは普段通り日中は学校へ行き、終わるとすぐに私の元へと顔を出してくれていた。
会話が途切れ、沈黙が二人を包む。
騒音も届かないここは本当に静かだった。
「あの、今日楓さんは……」
私はこうして日々同じ質問を麻斗さんにしている。
「相変わらず、って感じだな。特に変わった様子はねえよ」
「そうですか」
麻斗さんは嫌な顔一つせずにその日あったことや様子を教えてくれた。
こんな質問をすること自体間違っているのかもしれない。
楓さんから離れたくて、こうして手を差し伸べてくれた麻斗さんの気持ちを裏切っているのだから。
だけどどうしても聞かずにはいられなかった。
「またそんな顔して。せっかくの可愛い顔が台無しだなあ。言ったろ? 気にすんなって」
沈んだ表情をしている私に麻斗さんは頭をくしゃっと撫でる。
「花音が楓のこと気にすんのは百も承知で手を貸したんだから。いいんだぜ、無理なんかしなくてさ」
「麻斗さん……。すみません」
こんなに優しくされると余計に辛くなる。
だけどその優しさに今は寄りかかって甘えていたかったのも事実だった。
「そう思うんならこっちおいで」
にっと笑みを見せると麻斗さんは私の手をとってソファへと導いていく。
そして先に自分が座ると、開いた脚の間に私を座らせて後ろから身体を包むように抱き締めてきた。
首筋に麻斗さんの唇が押し当てられる。
「こうして花音といるとマジ落ち着く……」
麻斗さんは独り言のように呟くとそのまま首筋に顔を埋めた。