想-white&black-I-7
「でも外に出たら……。見つかってしまうんじゃ……」
「今のとこ俺の周りに張り付いてる人間はいなさそうだし、それに俺花音と行ってみたいとこがあるんだよ」
「行ってみたい、とこ?」
そう言って暗くなるのを待ってから向かったのは小さな遊園地だった。
既に閉園の時間のため客は誰一人いなかったが、麻斗さんが私達のために貸し切りにしておいたらしい。
豪華なテーマパークと違い派手さはないものの、ライトアップされている光景はとても綺麗だった。
「すごい……」
一歩中に足を踏み入れてぐるりと見回すと遊園地独特の楽しげな音楽や空気に包まれる。
私達以外誰もいないというのは異様な雰囲気でどことなく寂しげでもあったが、逆にそれが今の私には合っているような気がしていた。
「麻斗さんが来たかったのってここなんですか?」
隣に並び立つ麻斗さんに尋ねるとどこか遠い目で観覧車の方を見つめている。
「俺とか楓は家がちょっと変わってるだろ? ガキの頃なんかは勉強やら習い事やらばっかだし、親は忙しいしで子供らしく遊んだ思い出ってあんまないんだよ。それが普通だと思ってたから苦痛に思ったことはそんなにねえんだけど、やっぱりちょっと羨ましかったな」
麻斗さんや楓さんの子供時代……。
もちろんあって当たり前なのだが想像がつかない。
あまり今と変わらないような姿ばかりが浮かんできて、子供らしい可愛らしさがこの人達にもあったりしたのだろうかと思うと何だか可笑しかった。
「じゃあこんな風に遊園地にも来たことないんですか?」
「俺の記憶の限りはないな。この年にもなって遊園地ってのも……。でも一回来てみたかったんだ。できれば好きになった女と」
そう言ってすっと視線を向けられて思わず心臓が跳ねた。
それを悟られたくなかった私は慌てて目を逸らして早口でまくし立てる。
「ま、またそんなことを……。大体本当に私なんかがいいんですか? 麻斗さんならもっと綺麗な人だって選べるのに……」
「俺は花音がいい」
伸ばされた手が私の指先を握り締めた。
その繋がれた部分から心臓の音が麻斗さんに伝わってしまいそうで余計に恥ずかしい。
しばらく見つめ合うような状態が続いていると、麻斗さんが柔らかく笑った。
「行こう。俺、観覧車に乗りたい」
「は、はい」
見とれてしまう綺麗な笑顔に、私の顔はきっと真っ赤になっていたに違いない。
体温が上昇していくのが分かる。
麻斗さんに手を引かれながら、今が夜で良かったと心から思った。