想-white&black-I-5
「何回やっても勝てる気がしません」
「あはは。拗ねるなよ。悪かったって」
「別に拗ねてませんってば」
「全く花音はまるで子供みてえだなあ」
「な……っ、ひどいですよっ」
子供扱いされて思わず立ち上がり背を向ける。
確かに少し子供じみた言動だったかもしれないが、それも麻斗さんがからかったりするからだ。
上手く切り返して言いくるめるほどのスキルもない。
だから余計に私で遊んでいるのかもしれないけれど……。
背を向けたままどうもできずにいると、後ろからふんわりと包まれるように腕が伸ばされてきた。
鼻孔を彼の匂いが掠めていく。
「悪かったよ。ごめんな、からかったりして」
独特な甘いかすれ声が耳の奥を響かせる。
すぐ側で囁いているせいか、吐息がかかってくすぐったい。
「花音が子供じゃないなんてちゃんと知ってるから」
すっと伸びてきた長い指が顎のラインに添えられたかと思うと、くいっと後ろに向かされた。
そこには当然のごとく、綺麗な造りの中にも精悍さを帯びた麻斗さんの顔が至近距離にある。
お互いの息が触れるほど、近くに……。
こんな間近で顔を見たのは初めてで、瞳が少しグレーがかっているとか蜂蜜色の肌はすべすべしてそうなくらいきめ細かいことを知った。
何気ない、楽しくて穏やかだった空気ががらりと熱を孕み変化する。
二人の間にあるのは友人としてではなく、男と女の空気だった。
「花音」
熱っぽく囁かれた名前にびくりと肩が揺れる。
このままこうしていれば、この先にあるのが何なのか分かっているはずなのに身体が動かない。
私を見つめる双眸に捕らえられてしまったかのようだ。
―――そして、麻斗さんの顔が近づけられ唇がゆっくりと重なった。
始めは触れるだけのものだったのが一度離れたかと思うと、今度は身体ごと向きを変えられ向かい合う形になる。
一瞬見つめ合い、両肩を掴まれ再び唇を塞がれた。
麻斗さんとのキスはこれで二度目。
最初は教室でいきなりだった。
あの時の電流のような感覚が同じようにぞくぞくと背筋を駆け抜けていく。
指先や頭の中が痺れて力が入らなくて立っているだけで精一杯だ。