想-white&black-I-4
「だめか? どうしても無理?」
切なげな表情と声にとうとう私は折れてしまった。
「わ……分かりました」
「マジで!? やった! サンキュー、花音っ」
「きゃあっ」
正面から勢いよくかばっと抱きつかれた私は、そのまま一緒にソファに倒れ込む。
それでも麻斗さんは私をぎゅうっと抱き締めたまま離そうとしない。
身体の重みが直接かかり、いつも側にいると鼻をくすぐるフレグランスの香りに包まれ心臓が早鐘を打つ。
「あ、麻斗さんっ。重いですってば」
本当はそこまで苦しいわけじゃなかったが、こんな風に麻斗さんに触れられているのが恥ずかしくてたまらないのだ。
だが強く拒むこともできないのはやはり心地いいと、心のどこかで感じていたからかもしれない。
結城家の別邸で暮らすようになってから一週間が過ぎようとしていた時、ちょうど祝日にぶつかった今日は学校も休みだということで私達は朝から一緒に過ごしていた。
「よしっ、また俺の勝ちだな」
「もう。麻斗さん強すぎますよ」
「俺に勝とうなんて甘いぜ? やり込んでるもん、このゲーム」
そう言って無邪気なほどの笑顔を見せる麻斗さんは、燦々と降り注ぐ陽の光を浴びて輝いて見えた。
金色の髪が光を反射して透き通りとても綺麗だ。
麻斗さんは太陽の光がよく似合うと思う。
―――楓さんは、夜の静かな闇が似合うかも……。
そこまで考えてはっと息を呑んだ。
(私ってばまた……)
全く顔も見なくなり、声も聞かなくなってもう一週間になるというのにまだふとした瞬間がある。
未練がましくて情けないことこの上ない。
すぐ隣に座る麻斗さんに気付かれないよう、そっと溜め息をつくしかできなかった。
「だけど花音も結構やるじゃん」
「え?」
突然の言葉に顔を向けると、麻斗さんの整った顔がすぐ側にあった。
「ゲーム。なかなか筋いいと思うけど」
「そうですか? 麻斗さんには全然適いませんよ」
最新のハイビジョンテレビを前に二人で座り、アクションゲームで対戦をしていたのだが麻斗さんはめっぽう強くて全く歯が立たない。
(ハンデつけてもらってるはずなのに)
「どうする? もう一回やるか?」
コントローラーを片手ににやっと笑みを浮かべる麻斗さんに、私は悔しくて唇を尖らせた。