想-white&black-I-3
「お待たせ、花音」
美味しいと評判の洋菓子店で作られている限定のケーキと紅茶をワゴンに乗せて麻斗さんが戻ってきた。
そして自ら紅茶をカップに注いでいる。
そんな何気ない仕草すら優雅に見えるのは麻斗さんだからこそなのだろう。
大体そんなことを自らしなくても周りには仕えている人がいるのに、と思うのだが私のことはなるべく麻斗さん自身が手をかけてくれているようだった。
「そういえば今日は話があるんだ」
「話、ですか? 一体何です?」
差し出された紅茶のカップを受け取りそう答えると、麻斗さんはにっこりと満面の笑顔を見せる。
ソファに腰かけていた私の隣に座ると、じっとまっすぐに瞳を見つめてきた。
その強い眼差しに目を逸らせないでいると、麻斗さんがすっと私の手を握り締めた。
「なあ花音、俺とパーティーに出てくれねえ?」
「パ、パーティー?」
予想もしていなかった突然の申し出に目を見開きぽかんと口を開けて間抜けな顔をさらしてしまう。
そんな私に苦笑を浮かべながら麻斗さんが続ける。
「そ。俺、来週誕生日でさ。まあ色んなヤツ集めてパーティーあんだけど、それに一緒に出てほしいんだよ」
「で、でも私は……」
「大丈夫。ごく内輪なやつだし、英の関係者にはバレないようにするし。な、頼むよ」
両手を合わせながら懇願してくる麻斗さんを前に私はどうしたらいいのか分からず、しばらく答えることができずにいた。
「だめ……か?」
金色の髪の隙間から上目遣いで、しかもまるで子犬のような瞳で見つめられるとなぜだか負けたような気になってしまう。
「あの、でも私はそういう場は全く慣れてないですし、かえってお邪魔だと思うんですけど……」
若干しどろもどろになりながら言い訳をしてみるが、そんなことで麻斗さんは折れない。
「そんなこと心配しなくても大丈夫だって! 俺が側について離れないようにしとくし、ほんと気軽なもんだからあんまり構えることねえから」
そうは言うものの、麻斗さんの言う気軽と私達の気軽とは多分スケールが違うような気がしてならない。
なかなかイエスの返事を出さない私に麻斗さんはこれでもかというくらい、手を合わせたまま頭を下げてくる。
ここまでお願いされると、さすがに断る方がいけないことのような気分になってきた。