想-white&black-I-2
「麻斗さん……」
人の二倍も三倍も恵まれて、何でも手に入れていそうな人がこうして温もりを求めていることが意外だった。
―――楓さんも、そんなことを思ったりするのだろうか……。
ふと気がつけばそんなことを考えている自分が情けない。
これ以上想いを募らせたくなくてここにいるというのに。
「大丈夫か?」
「え?」
気遣わしげな声に少し首を返すと、麻斗さんが埋めていた顔を上げて私を見つめているのを感じ取った。
「ここに来てから楓に見つからないように外にも出してやれねえし、ずっと閉じ込めたまんまでごめんな」
麻斗さんはそう言って心配そうに私の髪を撫でてくれた。
「そんな。私のせいで麻斗さんに迷惑かけてるのに、こんなにしてもらって何て言ったらいいのか……」
「提案したのは俺なんだから花音が責任感じることねえって。もう少し落ち着いたらこれからどうするかちゃんと考えよう。な?」
「はい」
「よしっ。じゃあ何か食うもんでも持ってくるわ。待っててよ」
私の返事を聞いた麻斗さんは身体を離すと、明るくそう言って部屋を後にした。
再び一人になり、深い息を吐く。
英の屋敷から抜け出すことに成功した後、指定された場所に向かうと麻斗さんが迎えに来てくれていた。
そのままここへと連れてきてくれた麻斗さんは翌日には生活に必要な物全てを取り揃え、何不自由なく暮らせるようにしてくれたのだ。
そんな優しさという一言では片付けられない程のことを私に与えてくれた彼には、感謝と同時に申し訳なくもある。
当の本人は気にするなと言ってむしろ楽しそうにしているので、私がいることを本当に気にしていないのかもしれないが。
学校は体調不良を理由に休んでいた。
せっかくまた通えるようになった学校だが、元々両親が亡くなってから行けるかどうか分からなかったし、鳳条も楓さんに援助してもらっている形だったのでこれからは頼ることもできない。
せっかくでき始めていた友人と別れなければならないのは寂しかったが、楓さんから逃げ出したのだからそれも諦めるしかないだろう。
『外に出ると絶対見つかるから出ない方がいい』という麻斗さんの言葉に従って、私はこの屋敷から外には出られないので広い庭を眺めたり時に散策したり、テレビを見たり本を読んだり静かな日々を過ごしていた。
どこにも行かず麻斗さんやここに勤めている人以外誰にも会わず、何もせずに暮らすというのは何だか怠けているような気分だが、逆にこんな風にゆっくりする時間も今までなかったような気がする。
―――だが何でだろう。
離れることができてホッとしてるはずなのに、気が付くと楓さんの事を考えているのは。