なにげない一日-1
毎日決まった時間で目覚まし時計が鳴り、決まった時間に起きて、支度して、昨日と同じ時間に家を出る。
ぼーっと授業を受け流し、終業のベルと同時に家路に着く。
そんな退屈な一日が、また始まろうとしていた。
「…あれ?」
しかしどうしたことか。
今日に限って5分遅れているではないか。
どうやら寝過ごしてしまったらしい。
しかし、それがどうした。
たかだか5分遅れたぐらいで、おれの日常が変わるわけじゃない。
それはさほど気にすることでも無く、おれは制服に着替えて、リビングへ降りていく。
「あら、今日は少し遅いのねぇ。はい、コーヒー」
「え?」
「いつもならコーヒーが出来る頃、あんたご飯食べ終わって歯磨き行っちゃうでしょう?お母さんも飲むんだからついでよ」
「ああ、ありがとう」
母は自分の分のコーヒーをマグカップに注ぎ、おれの向かい側に腰掛けた。
いつも通りの朝食。プラスコーヒー、プラス母。
おれがコーヒーに砂糖とミルクを入れると、彼女はお子様ねぇと笑った。
母のブラックを一口貰う。
苦くておれはげぇっと舌を出した。
それを見て母は本格的に声を上げて笑った。
悔しくて歯痒い気持ちのままいつも通り支度をして、ネクタイを結びながら玄関へ向かう。
昨日まではリビングでコーヒーを飲みながらいってらっしゃいと言うだけの母。
しかし今日は、まだクスクスと笑っている母に見送られながら、俺は家を出た。
いつもなら止まらないはずの交差点で足止めを喰らった。
いつもならこの信号は青なのに…。
「お?大貫じゃん」
後方から発せられる声におれは振り向いた。
「大貫もこの道通るんだ」
声の主は同じクラスの倉田だった。
クラスのムードメーカーの倉田はいつもにこにことして誰からでも好かれる性格であり、あまり接点の無いおれにも気軽に話し掛けてくれるような人懐っこさ持っていた。
「まぁ、今日は少し…」
おれが遅く起きたことを話そうとした時、信号が青に変わった。
「少し、なんだよ。いいや、話しながら学校行こうぜ」
「ああ」
その日、おれは初めて誰かと登校した。