なにげない一日-2
いつもと違い生徒で溢れかえる校門を潜ると、おれたち二人は担任である川野に呼び止められた。
「大貫と倉田、か。珍しい組み合わせだな」
何やら嬉しそうに川野は笑う。
「お前たちでいいや。放課後少し残って俺の手伝いしてくれないか?」
「えーっ!何やらせるんすか、センセー!」
おれは黙って二人のやり取りを見ている。
「明日の授業で使う資料作りだよ。二枚の紙をホッチキスでカチッて」
「マジっすか?どーするー?大貫ー?」
「おれは別に、いいけど」
「おお、そうか!やってくれるか!頼んだぞ。放課後教室残ってろよ」
川野は片手を挙げて、職員室の方へ歩いていった。
「ったく、川野っち人使い荒ーよな」
倉田はそうボヤいたがその顔は何とも楽しそうだった。
「嘘付けよ。お前こういうの案外好きだろ」
「ん、おー。おれのこと分かってんねー、大貫さんよ。実は結構楽しみだったりする」
倉田はニッシッシと歯を見せて笑った。
今朝飲んだコーヒーのせいか、何なのか、いつも気だるく眠たいだけの授業中が妙に冴えている。
リアルタイムで黒板の内容をノートに書き写してゆく。
黒板が白い文字で一杯になったので、先生が前半部分をさっと消した。
その時だった。
「昂哉くん昂哉くん」
隣から不意に名前を呼ばれた。
見れば、隣の席の尾野がすまなそうに手を合わせていた。
「ノート、ちょっと見せてくれないですか?あたし、ぼーっとしちゃってて」
いつも真面目にノートを取っている尾野が?珍しいこともあるものだ。
「はい、いいよ」
「あ、ありがとうございます」
おれがノートを尾野側に移動させると尾野は机をくっ付けて、せっせと書き写し始めた。
「ふー、ありがとうございました」
「いいえ。でも珍しいじゃん」
「え?」
「いっつもちゃんと話聞いてるのに」
「あー…今日はね、たまたま。いろいろあって…」
「ふーん?」
ふあぁっと小さく欠伸をする尾野。
そしてへへっと恥ずかしそうに笑った。
「つーか、何で敬語?」
「えと、あの…昂哉くんて何か…大人っぽいってか…何て言うか…」
「話し掛け辛い?」
言いにくそうなので助け船を出してやると、尾野は申し訳なさそうにこくんと頷いた。
そうか。そりゃそうだ。
いつも一人で行動して、いつも無愛想でいたならば。