「花、綻ぶ」-4
「…さあ、帰りましょう。おとっつぁんもおっかさんも心配していますよ」
千世は差し出された手を掴み、二人は並んで歩き出した。
藤吉の手は温かくて、千世の左頬の痛みも何処かへ消えてしまっていた。
―藤吉も、この幼い日のことを思い出したのだろうか―。
今、繋がれた藤吉の手は、あの頃よりも大きくて、力強かった。
「…お前さま。こうして来年も、桜を見にきたいものですね」
「そうだなあ。毎年来れば、千世も私の一等大事なものを忘れないでくれるだろうからね」
笑みを含んだ声が聞こえて、次の瞬間、千世は藤吉の腕の中へ引き込まれる。
ちょうど、見事な枝振りの桜木に隠れることをいいことに、藤吉は素早く千世に口づけた。
千世の顔が見る間に、桜色にかわる。
その様子をみて、藤吉は声を上げて笑った。
ちらちらと花弁は舞い、その夢のような景色の中―。
二人は花が綻ぶように微笑んだ。
―完―