「花、綻ぶ」-3
「お嬢さん!」
前方をみると見慣れた姿があった。
「…藤吉」
「どこに行ってらしたんですか」
千世がほっとしたのも束の間、鋭い平手打ちが千世の左頬にとんできた。
それほど痛くはなかったが、初めて受けた衝撃に千世は泣くことも忘れ、ただ呆然と立っていた。
相対した藤吉は眉根を寄せ、険しい表情を千世に向けている。
目が少し赤いようなのは気のせいだろうか。
「どれほど心配したか…」
藤吉は、そう低く呟くと、手にしていた提灯を放り、千世をかき抱いた。
微かに震える藤吉の身体に触れ、その温かさに千世は忘れていた涙が溢れてきた。
「…嘘だ。千世はいらない子なんだ。皆、尋太がいればいいんだ」
藤吉は、そっと千世を離すと、黒目がちの潤んだ大きな瞳を見つめて言った。
「お嬢さんがいなければ、藤吉は哀しい。寂しい」
「…ほんと?」
藤吉は、こっくり頷いて続けた。
「藤吉はお嬢さんが一等好きですよ」
藤吉はにっこり笑う。
「ほんとにほんと?」
「ええ。藤吉はいつもお嬢さんの味方です。だから、これからは、何処かへ行く時は必ず藤吉には言ってくださいね」
「…うん」
「約束できますか?」
小指を出した藤吉に、千世も指を絡める。
指切り 拳万 嘘ついたら 針千本 飲ます