多分、救いのない話。-8--6
「慈愛」
母が――待っているから。
「お母さん、入っていい?」
「……はい」
外に出よう。そう思って、
「――――!」
抱き締められた。
「慈愛」
母の声は、優しく穏やかで、慈愛を無条件に安心させる。
「待っててくれる?」
だから、当然のように。
「うん」
頷く。
「ここで、待ってる」
この――《秘密基地》の、入り口で。
母が地下に消えても、慈愛の身体にはまだ温もりが残っている。
温もりを逃がしたくなくて、慈愛は身体を抱きながらうずくまる。
その貌には、無条件の安心が、安らぎが間違いなく存在していた。
温もりを抱きながら、慈愛は記憶をなぞっていく。
思考回路は既に停止し、感情も飽和していた。だから何処か他人事のように、心を記憶に任せていく。