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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-8--12

 その荼毘の翌日。
 火口は彼女から慈愛が見つかったことを知らされたのだ。
「――なんでこいつがいるんやっ!!?」
 火口は絶叫する。最悪の人物が、狂わせた張本人と狂った女が一緒のフレームに映るなど、あってはならない。
 なのに、一緒に映っていた。刑務所から出た直後から行方不明になっていた、遺伝子上の慈愛の父親。
 そして、母親は火口の絶叫を、どうでもよさそうに気怠げに流す。
「慈愛が匿っていたのよ」
 映像を消す。ダルそうにソファにもたれ、天井を見上げる。
「私も知らなかった。まさか慈愛があの人を私から隠してたなんて」
「メグちゃんが、隠してた? あいつを? なんで……」
 どうでもよさそうに、とんでもない事実を告げる。だけど、慈愛のことを知っているなら、全く分からないわけでもない。
 母を守るため。
 二度と会わせてはならない。火口だってそう思っていた。
 だが、この女はあいつに執着してた。それこそ痛みを忘れないように、――精神の自傷〈フラッシュバック〉を、火口を利用して、何度も繰り返し繰り返し繰り返して。
 火口だって、再び出会うことがないよう、密かに探してたぐらいだ。
「どこにおったんや」
「《秘密基地》」
 声は心なしか小さかった。
「慈愛がね、そこに何年も監禁してたの。私に教えてくれたのは何日か前だけど」
 酒をなめるように、少しずつ舌に乗せていく。舌をちろりと覗かせ、
「結構壊れてたわ、あの人。慈愛ったら狡いのよ、私を除け者にして。あの人を独り占めして、好きな時に好きなだけ遊んでたの」
「……そう、か」
 納得、してしまった。
 慈愛のあののんびりした自然体な態度は、《あいつ》に全てを発散させてようやく手に入れたものだったのだ。
 《あいつ》を犠牲にしてようやく手に入れた、どうしようもなく救いのない痛みの呪縛によるものなのだと。
 ……不自然だとは、思っていたのに。気付けなかった自分が間抜けすぎる。
「社長は気付かなかったんか」
「だって」
 ようやくこちらを向いた彼女の瞳を見て、
 硬直する。
 女はあの透明な笑みを浮かべていた。
 誰にも掴ませない、触れさせない、なのに相手を覆い尽くして全てを飲み込む、最も彼女が“危ない”笑みを――

「私、あの人のこと、教えてなかったもの」

 ……え?

「じゃ、じゃあ……」

 間抜けな声しか出ない。それでは慈愛は一体、

「知ってるはずがないのよ、慈愛は――」

 どうして、“父親のことを知っている”のだ?

「ねぇ、晃さん」
 火口の頬に、彼女の手が添えられる。
 逃げられない。
「“誰が教えた”のかしらね? 慈愛に、知らせる必要のない話を」
 慈愛が知っても、ただ致命的に傷つくしかない。父親は死んだことにしていた。火口もその嘘を知っている。
 この母親からは、有り得ない。
「私とあの人のことを」
 笑みの透明度が、増していく。
 何の感情も含まない、ただ笑うためだけの笑顔を、火口独りに向けて。
「知ってる人、そうはいないわよね?」
 何も答えられない。
 彼女は、火口を疑っているのだ。慈愛に知らせてはならないことを、慈愛に生涯治癒出来ない深い深い深い傷を与えたのではないかと――
 彼女の手が、リモコンを手にしていた。
 映像が、再開される。
「――!!……っ!」


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