青に染まる少女-1
友人の石田莉子(イシダ・リコ)の様子がおかしくなったのは、2週間ほど前のことだった。
話しかけても反応が薄く、何をしていても上の空。
3日前の抜き打ちテストが24点だったのだって、いつも成績トップクラスの彼女にしてはおかしい変化だった。
「ねぇ、莉子。なんかあったの?」
昼休み、莉子を含む仲のいい友人3人と共にお弁当をつついている時、私・松永藍(マツナガ・アイ)は2週間前から数度目になる質問を莉子に投げた。
他の2人・長谷川昭奈(ハセガワ・アキナ)と柴田千奈美(シバタ・チナミ)も気になっているらしく、箸を止めて莉子の方を見る。
母親の手作りだろうお弁当を無表情に咀嚼していた莉子は、ゆっくりと顔を上げ、何も見えていないような目を少しだけ細めた。
「別に、何も」
蚊の鳴くような声で言って、再び弁当箱に視線を戻す。
鮮やかな緑色のホウレン草のお浸しを箸で摘んで、薄桃色の口へと運んだ。
ゆっくりと咀嚼。
私たちはみんな、莉子を見ていた。
クラスの昼休みの喧騒がなぜか遠くに聞こえる。
私の隣に座っていた昭奈がイライラと箸を置いた。
「なんかあるんだったら言いなよ!私ら友達でしょ?
言えないんだったらそんな陰気くさい顔しないで!目障りだわ!」
「昭奈、何もそこまで……」
私と昭奈の向かいで莉子の隣に座った千奈美が宥める。
私はじっと莉子の様子を見ていた。
昭奈が出した大声に驚いたのか、クラス中の視線がこちらへ注がれている。
それでも莉子は顔を上げなかった。
静まり返った中で、またホウレン草を口に含む。
数度の咀嚼の後、コクンと飲み下し、弁当箱と箸を置いた。
ペットボトルのお茶を一口飲み、弁当箱を片付け始める。
ご飯もおかずもまだ多く残っていた。
莉子は最近、いつも残している。
少し痩せたみたいだ。
「なんとか言ったらどうなのよ!」
再び昭奈が声を上げた。
ざわめきを取り戻しかけた教室が再びしんとする。