青に染まる少女-9
◇ ◇ ◇
茶髪の男は圭吾(ケイゴ)と名乗った。
彼が私の手を引いて行った先は、駅の裏側にある雑居ビルだった。
入口の自動ドアが開くと、圭吾は私の手を離して中に入って行く。
私は後を追えずに立ちすくんでいた。
「藍ちゃん?どした?」
向こう側で振り向いた圭吾がこちらへ戻って来る。
閉まりかけた自動ドアが慌てたように開いた。
「あ……えと……」
自分でついて来たのではあったが、冷静になって考えてみると、圭吾を信用するには情報が少な過ぎる気がした。
悪い人には見えないから。
莉子のことを知っているから。
それだけの理由でついて来たのだが、それらには根拠というものがほとんどない。
立ったまま黙りこくる私の前で、圭吾はどうしたものかと悩んでいるようだった。
「んーと、俺のこと、疑ってる?」
膝を少し折り曲げて、私と目線を同じ高さにしてから、大きな目を見開いて小首をかしげる。
なんだか小動物のような仕種に、疑ってるとは言えなかった。
「や、あの……」
言葉を濁して下を向く。
どうしよう。
自問がぐるぐると頭を巡る。
圭吾もやはり考えているようで、一旦膝を伸ばしてからもう一回かがみ、
「俺、何もしないよ」
と、ニッコリと両手を広げて見せた。
「……」
尚も沈黙すると、体を伸ばして、頭をガリガリと掻く音が聞こえた。
どうしよう。
それは、私の心境でも圭吾の心境でもあるはずで。
声が聞こえたのはそんな時分だった。