青に染まる少女-11
私はなんだか落ち着かず、とりあえず鞄だけベンチに降ろし、立ったまま携帯を掛け始めた。
『もしもしっ?』
電話は1コールで繋がった。
電話の向こうは母親で、随分慌てているようだった。
「もしもし、お母さん?」
電話の向こうが安堵の溜め息をつくのが分かった。
『藍、あんた、今どこにいるの?連絡ないから心配したじゃない』
「うん、ごめん……」
母親の心配そうな顔が浮かび、涙が出そうになった。
「ごめんなさい」ともう一度繰り返す。
『本当に心配したのよ。莉子ちゃんがあんな……』
母親はそこまで言って、ハッとしたように言葉を切った。
『ま、まだ見つかってないのに』
行方不明のままだと言っているのだ。
恐らく母は、まだ帰宅していない私が莉子の死を知らないと思っているんだろう。
母の気遣いに気付き、私は知らない振りをすることにした。
「うん、そうだね……」と小さく返す。
電話の向こうで母が大きく息を吸い込む気配があった。
気持ちを切り替えようとする時の彼女の癖である。
『よし。お兄ちゃん帰って来たから迎えにやるわ。今どこにいるの?』
私はギクリとした。
帰ることはできるんだろうか?
帰ってしまってもいいのだろうか?
圭吾と志臣の顔が浮かんで、私は口をつぐんだ。
帰らないとして、何て言えばいい?
どうしよう。
最近の私はこればっかり考えている。
携帯を握り締めた右手がじっとり汗ばんできていた。
母親が『藍?』と怪訝そうに言うのが聞こえる。
どうしよう……。