青に染まる少女-10
「キミら、何してんの?」
涼やかな声だった。
振り向くと、腕組みをした長身の男が鋭い目付きでこちらを見ている。
「志臣(ユキオミ)!」
圭吾が嬉しげに声を上げた。
「やぁ〜助かったぁ。藍ちゃん、中に入りたがんないからどうしようかと……」
「遅せんだよ、お前は」
ゴッという音がして、志臣というらしい男の黒いスラックスの足が、圭吾のジーンズの太腿を蹴った。
「っってぇ!!」
圭吾はその場に座り込み、右の太腿を押さえて悶絶している。
「先に中入っとけ」
志臣はそう言い捨てると、私の方をチラリと見た。
そのまま何も言わずに背を向けて歩き出す。
『ついて来い』
そう言われているような気がして、少し迷ったけれど私は後を追った。
少し歩いて振り返ると、圭吾がひょこひょこと足を引きずりながら自動ドアの奥へ消えて行くのが見えた。
志臣が歩いて行った先は、駅近くのファッションビルの地下だった。
時刻は午後7時を回っていて、飲食店のテナントはどこも満席のようだった。
志臣は迷いのない足取りで進み、最奥のエスカレーターの前にあるベンチで足を止めた。
「家に電話はしたの?」
振り向いて尋ねる。
私は首を横に振った。
「電話しておいた方がいい。最近は物騒だから」
そう言った志臣の表情は、先ほどより幾分優しかった。
「飲み物買ってくるから」
そう言い置いてベンチを離れて行く。