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『Summer Night's Dream』
【青春 恋愛小説】

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『Summer Night's Dream』その3-1

旧校舎三階の資料室には、生徒以外の一般の人間が出入りすることがままある。
一般とは言ってもその人たちはどこかの偉い大学の教授だったり、お役所仕事の堅物な公務員だったりするから世間的に見れば一般とはかけ離れているのかもしれない。
そんなどこの馬の骨ともしれない奴らがたまに入っては消え、入っては消えてゆく。
陽介の中のこの場所はそんな認識しかなかった。
ウチの学校にそぐわない何か大切な物が保管されているのだろう、と。
そんなに貴重な物があるのならせめて鍵くらいつけろ、という話なのだが鍵を掛けても忍び込む輩はいる。
今夜の陽介達がそうであったように。
何から聞いたものか、と悩んだ挙げ句にまずはそこから問いただしてみることにした。


「まさか、勝手に入るわけないじゃない」


テーブルを挟んで向かいに座っているさくらが、驚きの声を上げた。


「先生にちゃんと断ってきたわよ。忘れ物があるからって言ったらすんなり通してくれたわ」


なるほど。その手があったか。そんな正攻法が通用するなんて、つくづく甘い学校である。


「あなた達だってそうでしょ?」


上目遣いにそう聞かれると何も答えられない。まさか鍵まで持ち出して警備の裏をついてきたなどとは口が裂けても言えそうになかった。
この場にいたっては、圧倒的にこちらが不審者なのだから。


「ねーねー、さくらちゃんって何年生?会ったことないからわかんないんだよねぇ。あ、ちなみに俺は陽介の友達の孝文ね。タカ君って呼んで」


いきなりしゃしゃり出てきた孝文が元気よく自己紹介した。ぶっちゃけてしまうとタカ君なんて馴れ馴れしく呼んでいるのは、孝文の母親だけである。


「あ、私違うから……」


そう言って、さくらがぎくりと身を固くした。答えづらそうに目を伏せて、それから思い立ったように、


「この学校の生徒じゃないから、私」


「えっ、じゃあどうしてウチの制服着てるの?」


孝文がズイと顔を出す。こういう時はコイツの図々しい性格も役に立つ。
いいぞ、もっと行け。

さくらは自分の制服をつまみながら、


「これね、家にあったおさがりなの。ここに来るのに必要だろうから、黙って持ってきちゃった」


聞けばさくらは、大和台女子の二年生で陽介達と同じ歳だった。大和台と言えばここら辺では有名な超お嬢様学校で、陽介の偏差値では足下にも及ばない。
分かりやすく言えば、横綱と幕下くらいのレベルの差があった。片腕で土俵からはじかれるようなものである。はなから勝負になどなりはしない。


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