『Summer Night's Dream』その3-6
学校はいかがでしたか、お嬢様。
よろしくってよ、爺や。今日の予定は?
本日はピアノと、ドイツ語の先生がいらっしゃいますので。食事の時間までは読書をして下さい。就寝は11時です。よろしいですか?
陽介はおつむがあまりよろしくないので、執事が爺さんだとかスケジュールが時間単位で決められてるとか、金持ちのお嬢様の設定にも限界があった。
外の景色が海から、のどかな田園風景に変わっていく。
「違うよ」
とさくらが笑って、首を振った。
「水嶋さんも、タカ君も、見ず知らずの私なんかの相談に乗ってくれたんだもの。とってもいい人達だと思うわ。もちろん、あなたもね」
はたしてそうだろうか。
水嶋はミステリーに飢えているだけだし、孝文は間違いなく何も考えていないだけだ。
本気でさくらの為に動いているなら、今夜だって学校についてくるべきだろう。
なぜ来ないのかと言うと、水嶋は暗所恐怖症で、孝文は連絡を取りようにもどこにいるのか分からない。
こんな奴らが、さくらの事を真面目に考えたりするものだろうか。
「あなた達三人って、何だか不思議。性格も考え方もバラバラなのに同じ場所にいるなんて」
ガタンゴトン。
列車の振動が、次の駅が近づくにつれ徐々に緩くなってくる。
「バラバラか。言われてみればそうかもしれない」
「でしょ。きっと水嶋さんが酸性で、タカ君がアルカリ性なのよ」
なんだそりゃ。
じゃあ、僕は何なんだ?
と陽介は聞いた。
さくらは考えるように、首を傾げてうーんと唸ると、
「……リトマス紙、かな」
「紙かよ」
「あら、馬鹿にしないで。リトマス紙って凄いんだから。相手に合わせて、赤にも青にもなれるのよ。そんな器用な生き方ができるのよ、いいじゃない、リトマス紙」
それだと最早、自分の意見を持たないような奴だと思われてる気がしてならない。
でもさくらの例えは、結構的を得ていると思う。
意外と人を見る目があるのか、陽介達が単純なだけなのか。
あえて言わせてもらうなら、酸は酸でも王水で、あってもなくてもいいような弱アルカリ性と例えるのが正しい。