『Summer Night's Dream』その3-2
「私の家って色々厳しくてね。夜外出するのも本当は止められてるんだけど、お手伝いさんに口止めしてもらって来てるの」
お手伝いさん、という聞き慣れない単語が引っかかったが、陽介にはもっと気になることがあった。根本的なことだ。
「…えっと、本庄さん」
「さくらでいいよ」
「じゃあ、さくら……はどうして学校に?」
どうして君はここにいるんだ?と陽介は聞いた。
今日も、昨晩も、もしかしたらその前からいたのかもしれない。昨日と同じように、電波みたいな答えが返ってくるのではと内心思ったが、さくらは、
「夢を見るのよ」
「夢?」
「そう。何日も繰り返し同じ様な夢を見たって経験ない?」
ない、とは言い切れないが夢なんてそもそも曖昧なものを、何日も続けて見るようなことが陽介にはなかった。
だいいち、起きた本人がその内容を覚えていたりなかったりするのだから必ずしも同じだとは限らない。
「それが私の場合は違うの。一番最初に見たのが夏休みが始まったくらいの時。おかしいなって思い始めたのが一週間、さすがに8月に入ってくるまで続くと気味が悪くて」
夢の舞台がこの学校の旧校舎だと突き止めたのは、さくらがあまりにも鮮明に夢の映像を覚えていたからで、たまたま池田高校に通っていた友達に相談を持ちかけて判明したらしい。
「その子のお姉さんもここの卒業生だったから、アルバムを見せてもらったの。驚いたわよ。夢で見た映像と何から何まで一緒なんだもん。
それからずっと悩んでて、どうしようもなくなって、行ってみようって思ったのが夏休みの最後の夜だったの」
「そこで偶然、僕と居合わせたんだね」
「そしてさくらちゃんと甘い夜の一時を……くそぅ、くそぅ」
孝文が唸りだした。
いい加減そこから離れてくれないか。