ハニードリッパー8-2
[ ねぇ…ねぇったら ]
[ …オシッコ? ]
[ 私ちょっとお散歩してくる… ]
ケイジはこっちを向いて私を抱き寄せてまた眠ろうとする。
[ 何で…外、真っ暗だよ ]
行かせまいと抱きしめてくれた。
[ いいのよ… ]
起き上がって寒いから上の毛布を一枚肩にかけた。
いくら辺鄙な場所でも夜中に本当にこんな格好でウロウロしてたらお巡りさんに捕まってしまう。
それ以前にお化けと間違われてしまうだろう…
もう…と呟いたケイジは破けたジーンズを履き、タバコの箱を腰に挿し込んだ。
ちょっと不機嫌だけど、まんまと作戦に引っ掛かってくれた。
いいじゃない…
いつも私が泣かされてるんだから。
外は真っ暗で虫の鳴く声が響き渡る。
毛布を広げてケイジの肩にかけて二人くっついて歩くとますます怪しい。
[ ねぇ、どこまで走ってるの? ]
[ ん? ]
[ ジョギングコース… ]
[ ん、あ…テキトー ]
私の感覚ではトラックでしばらく走らない限り何もない土地だった。
本当にお散歩するつもりはない。
[ ここ…毎年借りてるの?
今度は海が近いところにしましょうよ ]
真っ暗な夜道で私はテンションが高い。
それにくらべてケイジは半分不機嫌で半分眠ってる。
日の丸みたいな柄のタバコを一本取り出して火をつけた。
[ 借りてるっつか…
ここはペンネの別荘だよ ]
[ えぇっ!ペンネさんお金持ちなんだ… ]
[ 親がな… ]
ヒゲ面で厚いメガネをかけて髪ボサボサ…
でも、やたらいい人なペンネさんが実はどこかの御曹司って…
不思議と納得できた。
でなけりゃ悲劇だ。
バンドの運営費がケバいリタから出てるんじゃなくて、少しホッとした。