Heaven knows.-6
「杯だが酒ではない、心配するな」
「……」
「……我の杯を受けないと、」
「ここ、どこですか!?アヤちゃん達はどこっ?」
甘い香りが鼻腔をついて我に返った私は慌てて周囲を見回し、私を抱える「ミモリ」から逃れようとじたばたと暴れる。
……豪奢な天井だけでなかった。私達のいる辺りだけが畳で、周囲はだだっ広い板間。
しかもここには私と「ミモリ」と二人のこども達だけ。
「帰るっ、私帰るっ!」
この人たちは不審者だ!変質者だ!危ない人だ! と脳内で「ヤバイ!」指数がMAXに到達して、私は大声を上げた。
けれど「ミモリ」は大声を気にも留めない様子でクスクスと笑い、私を見ながら手にしていた杯の中身――甘い香りのする飲み物を自分が口に入れて。
「ん、ぅぐ……っ!?」
何をしているのか、と見上げた私の顎を掴むと唇を重ね――その甘い香りのする液体を私に流し込んできた。
「ふっ、んぐっ」
驚きのあまりに目を見開いて、「ミモリ」を押したり叩いたりするのに、目の前の男は至近距離で真っ直ぐに私を見たまま離れない。
為す術なくコクリと喉を鳴らして液体を飲み下すと、
「……それで良い」
僅かに唇を離し、けれど未だ間近にあるその美麗な顔を満足気に綻ばせ、再び近付き唇をペロリと舐めた。
「な、何してんのっ!」
ファーストキスなのに!
頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
全身に甘い香りの液体が染み渡るような気がして、訳もわからず湧いてきた焦燥感。「ミモリ」を睨み付けたところで焦燥感が治まる事もなく、私の傍では「エン」と「シャク」がキャッキャとはしゃいでいる。
「名は?」
「……珠理」
――体が熱く、火照り始めた。
「シュリ、良い名だ」
それを見計らったかの様に麗しく微笑んだ「ミモリ」に、私は完敗だった――。