Y先生の乙女な不安-6
「はーい先生ぇ、彼氏いるんですかー?」
「そういう質問は受け付けません!」
おちゃらけた口調で私に話し掛けるのは、ハルじゃない。
私はちらりとハルを盗み見た。
この補習のクラスに呼ばれた生徒で真面目にプリントを提出しているのは、ハルだけだ。
赤いボールペンを片手に真剣な表情でプリントを見つめる彼は、なんだか眩しい。
「あ、はい、先生」
そんなことを思っていたら、ハルがすっと手を挙げた。
「プリントの問5なんですけどー…」
「あ、倉本君?うん、なにかな?」
ハルの質問にごく冷静に、通常通りに答えて見せる私の中では、ちく、ちくと何かが心を突き刺す。
『先生』
---そうよ、だって私ハルの先生だもん。
私はハルの、先生だから。
だけど………
『由希ちゃん』
同じ声なのに。
こんなことぐらいで苦しくて、馬鹿みたい。
私は平気な顔で問題を解説する。
こんなとこばっかり、大人になってしまった。
***
テストの採点も終わり、校内に落ち着いた雰囲気が漂う。
ほぼ誰もいなくなった学校にも、その空気は残っている気がした。
交代で担当する放課後の見回りが、よりにもよって今日回ってくるなんて。
…今日は早く帰って寝てしまいたかったのにな。
結局のところ、私は自分から突き放したくせに、試験期間中ずっとハルのことばかり考えていた。
教師失格、ね。
教室の前に来て、何気なく中に入った。
教壇に立つと、自然と目線が引き寄せられる、ハルの席。
そんな自分に苦笑した。
本当…教師失格。
ほんとはいつも、授業中だってハルを意識してた。
ハル…。