Y先生の乙女な不安-18
「…だって、さ。」
「?」
「………。」
そのまま黙りこんでしまったハルが心配になって、私は顔を上げた。
「何…?」
「あいつ、彼氏いるんですかって…。」
「え?」
何のことだろう?
「補習の、ときの…。」
「…?」
『はーい先生ぇ、彼氏いるんですかー?』
補習授業のときの、男子生徒のことを思い出す。
「俺以外に由希ちゃんをそういう目で見てる奴がいるの、めちゃめちゃ嫌だ。」
「あんなの冗談だよ。」
「冗談でも、嫌だ。」
そう言って、ハルは私を抱きしめた。
「あいつ一回しめてやろうかな。」
「よしなさいって。」
私は苦笑するが、ハルはますます強く私を抱きしめる。
「…本当にさ、由希ちゃんと噂になりたいよ。」
弱々しい声に、心がきゅっとなる。
でもどう言えば良いのか分からなくて、私は小さくごめんね、と言った。
ハルはなぜか私を慰めるように私の頭を撫でた。
「…でもさぁ、やっぱりハルは大事な時なのに、私が邪魔しちゃうのはなんだか…。」
私の言葉に、ハルは呆れたように息を吐いた。
「俺にとっては今日も明日も十年後も、全部同じように大事だよ。」
体を離し、私をまっすぐ見つめる。
「若いからこんなこと言うんだって、言うなよ?」
ハルの指先が、私の頬に触れた。
「俺は頑張るかもしれないし、頑張らないかもしれない。…でも由希ちゃんがいなかったら絶対頑張れねぇよ。」
絶対なんてものはない、って言うのは簡単だ。
それは間違ってはいないと思う。
だけど…なぜだか私を見つめるハルの瞳を、信じきってしまっている自分がいた。
「そんなの私だって…ハルがいてくれなかったら頑張れない、けど…。」
「けど?」
…だけど、ハルを近くに感じる程、私が先生でいられなくなるのも事実。