声-1
僕には好きな人がいる。クラス中の憧れの存在でもある川島穂波(かわしまほなみ)だ。可愛いし、クラスの委員長でもあるし、人見知りで中途半端な内気でもあるこの僕――高瀬秀史(たかせひでふみ)にも声を掛けてくれる。もしかすると、単なる社交辞令かもしれないが、僕には声を掛けてくれるだけで十分だった。
高校に入って一緒のクラスになった瞬間に――古い表現だけど――恋に落ちた。いわゆる一目惚れであり、初恋でもあった。
話し掛けたり、物の貸し借りをするようにはなったけれど、そこから告白したりは無理だった。そもそも勝手な片想い。これで告白して、振られたりしたらいい笑い者になるし、ショックで立ち直れ無いと思う。だから、いつも思う。魔法が使えたらどんなにいいか、と……。それで両想いにして、――――などと考える。無理だと分かっていても……。
『声』
でも、挑戦しなければ想いは伝わらない。だから、告白しようと決めた。でも、明日告白しよう、明後日告白しよう、しあさって告白しよう、そうやって僕は逃げた。だから、一週間後の金曜日に告白しようと決めた。
そして、その日がやってきた。その日も彼女は肩胛骨辺りまでの髪を揺らし、放課後の教室へやってきてくれた。最近教室へ来てくれるように頼んでいる。他の友達からからかわれないようする為だ。
「高瀬君、今日はどうしたの?」
僕と彼女の位置は机の三つ分しかない。心臓が早くなる。正直逃げたかった。でも、伝えなければ……。
「川島さん。いきなりで悪いんだけど」
「なぁに?」
彼女は笑顔で、怪訝そうに聞いてくる。やめてくれ、その笑顔。それを見ると、『ごめん。なんでもないや』と言いそうになる。
「僕、キミのことが好きなんだ。だから、付き合ってください!」
そして、僕は九十度に腰を曲げた。お辞儀するような形なった。
言ってしまった。心臓の鼓動が早くなり、鼓動音が聞こえる。喉が渇く。速く、速くしてくれ。
「……ちょっと考えさせてくれる?」
かなり驚いた顔で彼女は言った。
「うん」
すぐに彼女は教室から走り去っていった。僕は気が抜けて、近くにあった椅子に崩れるように座り込んだ。
※※※
僕は自分のベットに横になりながら、天井を見上げた。あのあとの事はよく覚えていない。気が付いたら、こうして自分のベットにいた。
今回のことで、一つ気付いた。というより知った。僕は魔法が欲しいと思っていたけど、魔法なんてモノは不思議な事ではないんじゃないか? と。ただ想いを声に乗せて、相手に伝える事だけでそれだけでもう魔法なんじゃないか? と……。
それだけを知れたから、なんだか満足感に浸れていた。結果なんてもう、どうでも良かった。それでも、付き合ってくれないかなぁ。そんなふうに思っていた。
End
『雑談BBS・1192作ろう小説で!・参加作品』