無味『偽』燥-1
『プロローグ』
「お前はいったい何者だ!?」
青年は震えていた。既に立つことだけで精一杯だった。出来うるならば、これが夢で、すぐに目覚まし時計がなって目が覚めてほしかった。そして、夢か〜と安堵したかった。
だが、これが現実だった。青年は少年に追われ、少年から銃口を向けられ殺されそうになっている。少年は撃鉄を起こし、引き金に右手の人差し指を掛けた。
「オレか? くっくっくっ、あっはっはっ。愚問だな。オレは高校二年の正義感を振り回す普通の高校生だぜ?」
「どこが!?」
ただ会話を引き伸ばして、チャンスがあれば逃げ出す用意をしていた。だから、些細なことでも相手に返して、スキを見つけたかった。
「じゃあ、あんたは――――
prologue end
「良順さん、土方さんは行ってしまいましたか?」
天気の良い日の午前の事だった。縁側にでて太陽の光を浴びる彼は静かな口調で言った。
「ああ、土方君はもう会津へ行ったよ」
「そうですか。近藤さんは……?」
「わからない。私の耳には入ってきてないからね」
嘘だった。彼が局長と慕い、兄のように思っていた近藤勇はもういない。彼に言うと、彼が取り乱す可能性があった。ゆえに隠していたのだ。
「嘘、ついてません?」
「ついてないよ。どこかで情報が止められているのかもしれない。よくあるだろう、そういうこと」
「いいですよ。僕に気を遣わなくても……。近藤さんは……、死にましたよね?」
彼が――縁起でもないことだが――死んでから墓前に近藤が死んだ、と捧げようと思っていた。しかし、彼はもう知ってしまっている。たとえこれがはったりであろうとも、これ以上嘘をついても無駄だろう。
「……。ああ。三条河原で斬首されてしまったよ。でも、どうしてそのことを?」
彼は空を見上げ、思い出を思いだすような安らかな口調で言った。
「近藤さんが僕の枕元に立って言ったんです。『トシを頼んだ』って……。だから、僕はさとったんです。ああ、近藤さんは逝ったんだって……」
言葉を返すことが出来なかった。言葉を返すことが失礼だと思えた。彼らは一心同体だったのだ。三人で一人の人間として成立していたに違いない。しかし、すでに二人になってしまっている。それはもはや死と呼んでも過言ではないのだから……。
「でも、土方さんの事も近藤さん事も羨ましいです」
「どうして?」
「だって、近藤さんは戦って死に、土方さんも戦いの中で死ねる。でも、僕だけなんですよ。戦いの中で死ねないのは……」
「キミだって病魔と戦ってるじゃないか」
「違いますよ。近藤さんも土方さんも武士として、死に、死ねるんです。でも、僕は武士として、死ぬことが出来ない。戦うことの意味が違うんですよ」