投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

無味乾燥
【ショートショート その他小説】

無味乾燥の最初へ 無味乾燥 13 無味乾燥 15 無味乾燥の最後へ

無味『偽』燥-1

『プロローグ』

「お前はいったい何者だ!?」

青年は震えていた。既に立つことだけで精一杯だった。出来うるならば、これが夢で、すぐに目覚まし時計がなって目が覚めてほしかった。そして、夢か〜と安堵したかった。

だが、これが現実だった。青年は少年に追われ、少年から銃口を向けられ殺されそうになっている。少年は撃鉄を起こし、引き金に右手の人差し指を掛けた。

「オレか? くっくっくっ、あっはっはっ。愚問だな。オレは高校二年の正義感を振り回す普通の高校生だぜ?」

「どこが!?」

ただ会話を引き伸ばして、チャンスがあれば逃げ出す用意をしていた。だから、些細なことでも相手に返して、スキを見つけたかった。

「じゃあ、あんたは――――

prologue end


「良順さん、土方さんは行ってしまいましたか?」

 天気の良い日の午前の事だった。縁側にでて太陽の光を浴びる彼は静かな口調で言った。

「ああ、土方君はもう会津へ行ったよ」

「そうですか。近藤さんは……?」

「わからない。私の耳には入ってきてないからね」

 嘘だった。彼が局長と慕い、兄のように思っていた近藤勇はもういない。彼に言うと、彼が取り乱す可能性があった。ゆえに隠していたのだ。

「嘘、ついてません?」

「ついてないよ。どこかで情報が止められているのかもしれない。よくあるだろう、そういうこと」

「いいですよ。僕に気を遣わなくても……。近藤さんは……、死にましたよね?」

彼が――縁起でもないことだが――死んでから墓前に近藤が死んだ、と捧げようと思っていた。しかし、彼はもう知ってしまっている。たとえこれがはったりであろうとも、これ以上嘘をついても無駄だろう。

「……。ああ。三条河原で斬首されてしまったよ。でも、どうしてそのことを?」

 彼は空を見上げ、思い出を思いだすような安らかな口調で言った。

「近藤さんが僕の枕元に立って言ったんです。『トシを頼んだ』って……。だから、僕はさとったんです。ああ、近藤さんは逝ったんだって……」

言葉を返すことが出来なかった。言葉を返すことが失礼だと思えた。彼らは一心同体だったのだ。三人で一人の人間として成立していたに違いない。しかし、すでに二人になってしまっている。それはもはや死と呼んでも過言ではないのだから……。

「でも、土方さんの事も近藤さん事も羨ましいです」

「どうして?」

「だって、近藤さんは戦って死に、土方さんも戦いの中で死ねる。でも、僕だけなんですよ。戦いの中で死ねないのは……」

「キミだって病魔と戦ってるじゃないか」

「違いますよ。近藤さんも土方さんも武士として、死に、死ねるんです。でも、僕は武士として、死ぬことが出来ない。戦うことの意味が違うんですよ」


無味乾燥の最初へ 無味乾燥 13 無味乾燥 15 無味乾燥の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前