無味『偽』燥-8
『エピローグ』
満月に少し雲が掛かる程度の夜に、青年は追われていた。何が理由で追われているのか、心当たりは一切無い。
ただ青年は走り続けた。後ろを見ず、誰かにぶつかってもただ走り続けた。後ろを振りかえると殺されてしまう気が青年の中でしたから……。だが、気が付くと袋小路に迷い込んで、目の前は既に行き止まりだった。
「なぜオレを狙う?!」
声が震えていた。
「理由は……ないな。あったほうが良いか?」
少年は淡々と語る。そこに感情などはなかった。
「お前の目的は!?」
「あんたを殺すこと。それ以上でもそれ以下でもない」
「じゃあ、お前は何者だ!?」
青年は震えていた。既に立つことだけで精一杯だった。出来うるならば、これが夢で、すぐに目覚まし時計がなって目が覚めてほしかった。そして、夢か〜と安堵したかった。
だが、これが現実だった。青年は少年に追われ、少年から銃口を向けられ殺されそうになっている。少年は撃鉄を起こし、引き金に右手の人差し指を掛けた。
「しつこいな。あんたはいったい何を知りたい?」
「オレを狙う目的だ!」
ただ会話を引き伸ばして、チャンスがあれば逃げ出す用意をしていた。だから、些細なことでも相手に返して、スキを見つけたかった。
しかし、少年は未だ引き金に指を掛けている。スキもみつけられない。そして、いつ引き金を引くのか、男にとって一瞬一瞬が緊張の連続だった。
「さっきも言ったろう。理由はない、と……。いや、そうだな。あえて言うなら」
少年はまた語る。眼光は青年だけを捉え、すぐにでも引き金を引き、青年を殺す用意は出来ていた。
「あんたが偽物だから、かな」
「オレのどこが偽物なんだ?!」
「あんたが気付いてないだけさ」
少年は歪んだ笑顔で言った。それに青年が反抗した。
「違う! オレは偽物じゃない!」
「じゃあ、あんたは豊胸手術した女と手術していない女の区別を、食品添加物の入った食品と入ってない食品の区別がつくのかい?」
「それは……」
「つかないだろ? それが偽物っていう証拠だ」
そして、少年は引き金を引いた。高速で発射された弾は男の頭を貫き――――。
「ま、そういうオレも偽物だけどな」
epilogue end