無味『偽』燥-5
突然だが、僕は犬が好きだ。特にブルドックが好きだ。あの不細工な顔が苦手という人もいるかも知れないが、あの不細工な顔がたまらない。ブルドック一匹一匹によって微妙に違うあの顔を見ているだけで、楽しくなってしまう。ブルドックならではの声もたまらない。だが、好みに合うようなブルドックになかなかあえない。しかし、僕はあってしまった。ある意味『奇跡』のブルドックに……。
『dog〜奇跡の犬と僕〜』
地雷火父高校(じらいかじこうこう)。それが僕が通っている学校。変わっている人たちが非常に多いが、それはまた別の機会に紹介しよう。
学校からの帰り道。部活も終了していたから、七時を過ぎていたかもしれない。家まであと数百メートルと近づいた時、クゥーンと寂しげな仔犬の泣き声が聞こえた。犬が好きだったから、泣き声が聞こえるほうに駆け寄ると、ブルドックがそこにいた。仔犬の大きさではない。一般的な犬の大きさはある。
「よう。お前は誰だ?」
突然声が聞こえた。まわりは住宅街だから、声が聞こえても不思議ではない。が、周囲には誰も居ない。誰かいて僕が気付いていないだけかもしれないが、産まれたときから住んでいるこの街に知らない人はいないつもりだ。無論街の人も僕のことを知っていると思う。少々自意識過剰かもしれないけど……。
「なんでまわりを見てるんだ。オレはここだぞ」
声は下から聞こえた。しかし、下にいるのは普通のブルドック。ということは、ブルドックが喋っているのか?
「なんだ、キミか。ってブルドックが喋ってる?!」
「お前リアクションがわざとらしいんだよ。リアクションは自然にやんなきゃプロの芸人にはなれねぇぜ」
「いやいや、芸人になんないから!」
思わずつっこんでしまった。ペースが乱されてしまう。
「そう、そのツッコミを待ってたんだ。お前、センスあるな。芸人になれるぜ」
「だから、芸人になんないから! というよりキミはなんなの?」
「オレか? オレはブルドックの『ヨッシー』だ。よろしくな」
「小さいツしかあってないじゃん!」
「名前なんてノリで良いんだよ。だから、小さいツしかあってなくても『ヨッシー』で良いんだよ! わかったかッ!!」
わかったような、わからないような。返事を言う前に『ヨッシー』は言う。
「そんなことよりお前は誰だ?」
「僕?」
「そう、お前だ。他に誰がいる?」
確かにその通りだ。まわりをまた見ても誰も居ない。もし居たとしても犬と喋っている僕を見かけたら、逃げるに違いない。ということは、傍から見るとかなり痛い人に見えているのか。ショックだったが、気を取り直して言った。