“異聞" 老木との約束-3
「 んっ・・・んぅっ・・・」
唇を割って入り込んできた慶次の舌に自らの舌を進んで絡ませながら、
まつは体全身が火のように熱くなっていくのを感じていた。
覆い被さるようにして自らの白い身体をがっちりと抱きすくめる慶次の体温を、彼の着物越しに感じているせいだろうか。
心なしか 心臓の鼓動が
まるで乱鐘のように早い感覚になっている。
( この人は・・・・ )
重なりあう唇と唇の間から微かに漏れてくる生々しい水音。
それを耳にしつつ、無我夢中で慶次との唇を重ねるまつは改めて思う。
( 本当に・・・火のように熱いひと・・・・ )
ああ、早くその体に抱かれたい。
逞しい慶次の肉体に、思うさま貫かれてみたい―――
そんな想いを伝えようと、静かに両手を慶次の背中に回すまつ。
その指が慶次の背中にぐっと食い込んだ時、その仕草で全てを察したのだろう。
ゆっくりと唇をはなし、まつの口元から銀の糸を伸ばしながら
慶次はまつを見つめ、微かに微笑みつつもゆっくりと頷いた。
微かに桜の花びらが漂い始める。
少し、風が出てきたようだ―――
††††††
―――遠くから聞こえていた滝の音が、今では聞こえなくなっている。
風が出てきたせいだろう。
慶次の長年の親友ともいえる桜の老木の根本に、
二人はいた。
地面には慶次の虎の毛皮で編まれた上下と袴が広げられ、
その傍らには
まつが先程脱いだ桜の花びらと草木の模様を散りばめた着物と帯が置かれている。
今まで慶次が腰にさしていた大小の業物は老木に預ける形で立てかけられている。