『Summer Night's Dream』その2-5
「こ、今度は何だ!?」
「あそこで今、人影が動いたような……」
ひぃっ、と孝文が女のような声を上げた。
いや、今度は見間違いではない。間違いなく誰か居る。
陽介はしがみついてきた孝文を振り払い、足早に歩き出した。
「うわ、置いてかないでくれぇ!」
風の音が次第に大きくなる。
予感、という生やさしいものではなかった。脳裏によぎるその既視感。
鼓動が駆け足を始める。
それと共に歩くペースも上がる。
陽介は分かっていたのだ。
夢なんかじゃない。
あれは、夢なんかじゃない。
いるんだ。
今夜もきっとあの場所に。
旧校舎の三階、突き当たって右側の、資料室に。
震える息を吸い込む。
ゆっくり、
ゆっくり、
ゆっくりと、陽介はその扉を開けた。
「いた」
当たり前のように、あまりにも普通に、彼女はそこに立っていた。
窓際の手すりを掴んでいた本庄さくらは、誰かが入ってきた音に気づきその身を翻した。
「あら」
ポカンとして口を開けたままの陽介を見て、くすくすと微笑んだ。
「こんばんは、幽霊さん」
夏休みはまだ、終わらない。