『Summer Night's Dream』その2-3
ふん、と鼻を鳴らして
「一年以上前のことなんか、いちいち覚えとらんわ」
だよな、と陽介は首を回し、背筋を伸ばした。デスクトップの光が、目にチカチカする。
もしかしたら、資料室についても何かネタが引き出せるかもしれないと思ったが、ムダだった。何しろ、自分のひげ剃りはどこへやったと吠えながら右手に持ってるような現在である。
言ったことに確信が持てないのも無理はない。
「しかし、お前、あそこで何かしたのか?」
じいちゃんはコップを置いて、打って変わって不審げな口調でそう聞いた。
「えっ。何か知ってるの?」
「あそこは危険だぞ。下手なことはするな。じいちゃんも前にオシッコを引っ掛けて股間が大変なことになった」
………。
ああ、部長になんて報告すりゃいいんだ。
9月1日、始業式の夜に陽介は孝文を引き連れて学校へ向かった。
昨日と同じ様に通学カバンを肩に提げている。中にはデジカメと、愛機であるdynabookが入っている。
写真をとって、すぐに編集できるようにする為だ。
駅で孝文と待ち合わせて、9時10分発の電車に飛び乗った。
とにかく時間がない。
先立つ物は何もないし、ついでに言うと金もなかった。
部長に言われて進めていた調査が何一つ進んでいないことに、焦りを募らせていたのだ。
そして、何を思い立ったのか、気付けば電話で孝文をたたき起こしていた。
「何しに行くんだよ、こんな時間に」
改札を抜け、学校に向かう途中で後ろを歩いていた孝文が欠伸を噛み殺した。
「俺だって暇じゃねえんだよな、悪いけど」
本当のことを言おう。陽介はちょっとマジな顔になって立ち止まり、振り向いた。