再生の刻-9
あの日から数日が経った。
少女はウッドデッキの縁に腰をおろし、湖の方を眺めていた。
伸ばした足先を水面につけ、杭のように突き出た枝を見つめている。──名も知らぬ鳥。
鮮やかな色を身に纏い、仲間もなく枝にとまっていた。
「あ…」
何処からともなく、もう一羽飛んできた。
先ほどの鳥と同じ模様。仲間だろう。その鳥の誘いに、とまっていた鳥が飛び発った。
羽根をはばたかせ、二羽は寄り添うように森へと消えていった。
「……」
虚ろな瞳。少女はゆっくりと立ち上がると、屋敷へと帰っていく。
あの日以来、喫茶店は閉ざされたまま。なにもやる気が起きない。種に水を与えるのもやめてしまった。
まだ陽のたかい時刻。彼女はベッドに潜り込む。
眠れるはずもない──悪夢は今も続いている。
「…ぐ…う…うう…」
誰にも見られること無く、彼女は涙を流す。慣れたはずの孤独に、耐えられなくなっていた。
翌日、その日は朝から雨が降っていた。
雨粒により水面は鈍色に色を変え、森の濃いグリーンも霞んでいる。
そんな朝、少女はベッドの中で毛布にくるまっていた。
音も無く降り続く雨。やがて水面はウッドデッキを静かに飲み込もうとする。
「あッ!」
少女は慌てて飛び起き、階段を駆け降りた。
店内を走り抜けてドアを開けた。
「…!」
ウッドデッキに置いていた缶は、半分くらいまで水に浸かっていた。
少女は、足首まで水に浸かりながら缶を両手でつかみ、
「…ごめんなさい。アンタまで失うところだったわ」
店の中へと戻ると、カウンター向こうにある流しに缶を移した。
その日は1日、雨が振り続いていた。
翌日、眩しいほどの朝日。前の日に降った雨により、空気が清んでいる。水面はすでに下がっていた。
デッキブラシの音がリズムを刻む。少女がウッドデッキを磨いていた。
額に汗を滲ませて雨でついた汚れを磨き落す。
「…ふぅ」
汚れが落ちると、水気をモップで拭き上げた。
「終わった…」
滴る汗を手で拭い、きれいになったウッドデッキを見る少女の顔が、かすかに微笑んだ。
「さて、あのコを持って来なきゃ」
掃除道具を抱えて店の中へ戻り、昨日、カウンター向こうの流しに近づいた。