再生の刻-7
「久しぶりね。待ってたわ」
彼女はカウンターに越しに声をかけた。
「嬉しい言葉だね」
「…?」
少女には、男の云った意味がわからない。
「ここを訪れるようになって初めてだよ。──待ってた─なんて」
「そうだったかしら…?」
「ああ…」
「そう。ここんところ、夢に魘されてるからじゃない…」
「夢に…?」
男は少女の話に耳を傾ける。その顔に笑みはなかった。
「ねえ?全部夢だから…大丈夫よね」
すがるような瞳。それに対し、男は何も答えない。
やがてポットのお湯が沸いた。少女はそこで会話を打ち切り火を止めた。
「どうぞ…」
カウンターに置かれたコーヒーカップ。男がひと口目を飲もうとすると、
「おじさん。今日は違う話をしてしてくれない…」
「違う話だって?」
「うん…気分を変えたくてね」
いつもと変わらぬ淡い笑み。だが、その眉根のわずかな皺を男は見た。
「そうだな…」
男はひと口目を飲んで、軽く咳払いをすると語りはじめた。
「…それは昔のこと。ある場所に喫茶店があった…」
──その喫茶店は男の夢だった。若い頃からコツコツと金を貯めて、ようやく店を持った。
男は自分の腕に自信があったんだ。すると、すぐに客が訪れるようになった。
それから瞬く間に噂が噂を呼び、店は繁盛しだした。
あまりの忙しさに1人ではこなし切れなくなり、男はすぐに女の子を雇った。
その娘は愛らしくてね。それに覚えも早かった。いつしか男は彼女のことを、アシスタントでなくパートナーとして見るようになった─
男の手がカップに伸びる。
「…それで?」
問いかける少女。いつもような目の輝きはない。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
そう云うとカップのコーヒーを一気に流し込んだ。
──それから、2人が恋に落ちるまで幾らも掛からなかった。その半年後には結ばれた。
2人にとっては、人生最良の日だと思われた。女は、このまま幸せがずっと続くと信じていた。
だが、そうじゃなかった。夫婦になって3年が過ぎた時、男の態度が変わった。
店にでなくなった。丸1日、家に帰らないのはざらで、時には数日間帰らないこともあった。
女は徐々に追いつめられていく。昼間は喫茶店の切り盛り、夜は帰らない夫に対する不満に。精神は少しずつ崩れていった。
そんなある日、彼女は店の客から夫の不義の噂を聞かされた。