再生の刻-6
また1週間が過ぎた。
夕方、ウッドデッキに置いた缶を店内の床に移す少女。
蒔いてから2週間が経ったが、缶の表面は未だ土に覆われたまま。
「なによッ!こんなモノ」
衝動が彼女を突き動かす。何の変化も見せないことに苛立ちを感じ、思わず缶を蹴った。
店内の床に土が散らばった。
「……」
少女の顔に哀しみが宿る。
やったことの愚かさ、男が最後に云った言葉、続く悪夢。慣れたつもりでいた孤独。
だが、そうではなかった。
「ごめん…」
少女は土を缶に戻すと、種を拾い集める。掌に握られた種は、2週間前となんら変わらぬ形をとどめていた。
少女は種を蒔きなおしたが、ウッドデッキに場所を移すと、そのまま放ったらかしにしてしまった。
視界に入るのを避けるかのように。
翌日。
喫茶店のドアが開き、男が現れた。
「やあ…」
彼はいつもの笑顔で中に入ったが、
「…?」
そのむこう、カウンターには少女がつっ伏して寝息を立てていた。
それを見た男は、すべてを悟ったように目を細める。おそる々彼女に近づくと、そっと肩を揺らした。
「お客さんだよ。そろそろ起きてくれないか?」
「…う…ん…」
少女はゆっくりと、つっ伏していた身体をもち上げた。
「…あ、いらっしゃい」
振り返り、男の顔を確認して、いつもと違う──喜び溢れた笑顔を見せた。
少女は立ち上がり、カウンターむこうに立つと目元を拭った。
男は、カウンターに腰掛けておもむろに訊いた。
「あの種を蒔いたんだね」
「えっ?なあに」
「入口の缶。あれ、種を蒔いたんだろう?」
「ええ…そう」
少女は顔を赤らめる。まるで、隠し事でも見つかったかのように。
男は小さく頷いた。
「でも、水を欠かしちゃいけないよ。毎日あげなきゃ」
「……」
柔らかい口調。だが、少女は憮然とした表情を浮かべている。
「君が種を蒔いたってことは──命を芽吹かせる─ことなんだ。その命を途中で断ち切るようなまねをしちゃダメだよ」
表情も口調も柔らかい。だが、言葉は厳しかった。
「わ、分かったわよ」
少女はグラスに水を注ぐと、ウッドデッキへと向かった。
男はその後ろ姿に、また目を細めた。
「いつものでいい?」
「ああ、頼むよ」
水をやり終えた少女は、カウンターに回ってポットを火にかけた。お湯が沸き上がるまでのわずかな時間。