再生の刻-5
「そういえば、忘れてたわ…」
彼女はそれを取ると、再び店へと足を踏み入れる。カウンター向こうに回り、なにやら物色しだした。
「これが良いわね」
小さな缶を手に取り、底に小さな穴を幾つもあけた。
「──アンタたち─待ってなさい」
彼女は左手に持つ包みに向かってそう云うと、一度は閉めた店のドアを開けて表へと向かった。
店を離れ、そばにある森へと歩いていき、大きな巨木の前で止まった。
ふた抱えはありそうな樫の木。その根元にはこげ茶色の落ち葉が、幾重にも積み重なっていた。
「ここなら良さそう…」
少女は小さく頷くと、根元の落ち葉を払いのけてその下にある土を缶に詰めだした。
一見すると土に見えるモノ。それらは、落ち葉が微生物やバクテリアにより分解され、植物にとって滋養溢れる土に変化したモノ。
少女は、缶の8分目あたりまで土で満たすと包みを開いた。
「へえ…」
たった3粒の種。一見するとヒマワリの種を思わせる形だが色は褐色だった。
「…いかにも、南国をイメージさせる色ね」
彼女は土の上に種を置き、指でギュッと奥に押し込んだ。
「さあ、帰りましょう。お水あげるから」
楽しそうに缶を見つめる目。それは男が外国の話をするときに見せる、そんな目だった。
少女が種を蒔いて1週間が過ぎた。
相変わらず安穏とした日々。だが彼女は、今も悪夢に苛まれていた。
「ふうっ…」
眠れなかった目は少し充血している。彼女は店中へと歩みを進め、ドアの傍に置いた缶を手に取った。
「おはよう。今日もたくさんの日光を浴びてらっしゃい」
店のドアを開け、日当たりの良いウッドデッキに缶を移す。
左手にはグラスに注いだ水を持っていた。
「今日も暖かい…」
まるで、愛しいモノでも見つめるような笑みを浮かべ、グラスの水を缶に注ぎ込む。
昼間はたっぷりと日光に当て、夕方には店内に移して冷え込みを避ける。──思いあふれる行為。
──孤独(ひとり)が好きなはずだった。