再生の刻-10
「あッ…」
缶の中、褐色の土の中から小さな双葉が3つ、顔を出している。少女は缶を手に取り、再びウッドデッキに出た。
降りそそぐ日光の下、あらためて──新しい生命─を見つめた。
「…ハジメマシテ…」
その瞳は慈しみに溢れていた。
あの日以来、閉ざされていた喫茶店にようやく明かりが灯った。
入口ドアが来客を告げる。少女の顔が一瞬、強ばった。
「やあ、おじゃまするよ」
あの時、居なくなった男が笑みを湛えて立っていた。
「…あ、あなた」
少女の中に怒りが甦える。
「きみに伝え忘れたことがあってね」
「わたしは聞きたくないわ。あなたの話しなんかまっぴらよッ」
「まあ、そう怒らずに。それより、いつものヤツを煎れてくれないか」
男はいつもの席に着くと、帽子を取って傍らに置いた。
少女は釈然としない目でしばらく見つめていたが、やがて諦めたようにため息を吐き、ポットを火にかけた。
「やっと出たんだね。芽が」
「…ええ。そうね」
ぎくしゃくとした言葉。閉ざそうとする心。
しかし、見つめるその瞳は潤んでいた。
「…これから此処も日射しが強くなる。もうすぐだ」
「なにが?」
「花だよ。真実の花」
「そう…」
素っ気ない態度。心の中では、花を待ちわびているのに。
ポットの湯が沸いた。
「どうぞ…」
ドリップされたコーヒーがカップに注がれ、男の前に置かれた。
「ありがとう」
手が伸び、カップが口許に運ばれる。ひと口すすった。
「ああ…」
満足そうに微笑む。その顔に、少女の表情がわずかに緩んだ。
「ところで、さっきの話…」
「ん?」
男の視線が少女に向いた。
「さっき、──伝え忘れた─って云ったじゃない」
「ああ、そうだったね」
カップがソーサーに戻される。
「先日の話…あれには、真実の一部が欠けていた」
「真実…?」
「そう、真実だ。ただ、君に聞く勇気があるだろうか?」
かわらぬ笑顔。だが少女には、皮肉られているように感じた。