涙の果て-1
初めて見た時から、あの人は彼女を連れていた。
彼の名前は松浦一樹(まつうらかずき)。
容姿端麗、生徒会長、バスケ部部長。
完璧だ。
まさしくあたしに相応しい。
松浦先輩の彼女の名は潮枝里(うしおえり)。
いたって普通の、どこにでもいる女だと思う。
あぁ、普通よりはちょっとキレイ系かな。
あたしには劣るけど。
あたしは七瀬里美(ななせさとみ)。
今まで手に入らなかったモノはなかった。
今欲しいモノ:松浦一樹
先日、同じ学年に潮先輩を狙っている男子がいるという情報を入手。
今はそいつ、佐藤淳司(さとうあつし)と会っている。
とある喫茶店の中。
「…つらいよな…」
「つらいよね…」
んなワケないじゃんと思いつつ、佐藤君に話を合わせる。
「なんかいい方法ないの?」
「…お前が考えろよ」
先輩達を奪っちゃおうって話切り出したのはあたしだし、そもそも佐藤君呼び出したのもあたしなんだけど、全然いい案浮かばず。
「あ゛ーもういい!」
「…なっ何!?」
「明日の放課後お互い先輩呼び出して告る!んでいーじゃん!」
「…七瀬、お前アホだろ」
「うるさいよ!付き合ってくんなきゃ窓から飛び降りてやるぅ〜とか言っとけばどうにかなんじゃん!?」
「…なるか?」
「………じゃあ」
あたしは少し考えて、閃いた事を小さめの声で佐藤君に伝えた。
「放課後呼び出し告って断られた瞬間にグイッと引っ張ってチュー☆…でどーよ?」
佐藤君は何か言いたそうに口をパクパクさせ、目を見開いてあたしを見た。
何も言わないのを良い事にあたしは反論ナシと勝手に解釈して、席を立った。
「じゃ、明日そーゆー事でよろしくね」
「あっ、おい七瀬…」
聞こえない聞こえない。
見とけよ、潮枝里。
翌日あたしは忙しかった。
まず朝。
ちょっと早めに学校来て、ベタだとは思ったけど、潮先輩の上靴の紐を解くという些細なイヤガラセをしておいた。
そして潮先輩が来た頃を見計らって、職員室を訪れた帰りと思わせつつ2年の教室の前を通る。
潮先輩はいた。
教室前の廊下の窓に寄り掛かり友達と話していた。
あたしはその前を通り過ぎた。
普通に通るんじゃおもしろくないから、ガン飛ばしながら。
さすがに気付いたらしく隣の友達にあたしの事をなにか言ってたみたいだけど、シカトして階段を降りた。
その後、クラスの男バス部員から無理矢理松浦先輩のメアドを聞き出し、早速メールを送った。
″2年の七瀬っていいます。今日の放課後、部活の前に屋上まで来てください。鍵は開けときますので。″
と。
返事は直ぐに来た。
″誰だか知らないけど取り敢えず行ってみます。″
″待ってます。″
と更に返した。
長い長い6時間が終了。
あたしは職員室に走った。
担当の先生に、屋上で友達と写真撮りたいから、と訳を話すと、快く了解してくれた。
いい先生が担当で良かったと思う。
職員室を出た後、目の前の階段を駆け上がり行き止まりになったところで鍵を開け、扉を押した。