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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈国王篇〉前編-9

「所詮こんな物か、オレの存在は。」

自分で放った言葉が突き刺さる。答えを求めても何も返ってくるはずが無い。虚ろな目は助けを求めていた。

意識にぼんやり入ってくるのは今、その目に映る景色。

カルサがいなくなる。

その言葉が頭の中を支配していた。そっと右手で右目を覆ってみる。視界は半分。

あの時、カルサと会話をしていた時、ついさっきの出来事なのにサルスは半分位もう思い出せなかった。忘れたというより、会話していた時点で何度か意識がなかったと言った方が近い。

自分の知らないところで自分が操られているような感覚がしてたまらなかった。最初は意識を失う間隔が短かった、疲れだろうとそう思っていた。しかし徐々にその間隔が長くなり、気付けば自分の行動を思い出せない事が増えていた。

病気なんだろうか。初期状態は医師にもかかったが、やはり疲れだろうと言われた。目まぐるしく過ぎる毎日、次々起こる予期せぬ出来事に振り回され、気付いた時には症状は重くなっていた。

カルサがいなくなる。そんなの分かり切っていた事だろう。その為に今までやってきた、いつでも代われるように変われるように。

まさか自分が、こんな事になるとは思ってもいなかったから。

「これがオレの運命か。」

偉大なる王は消え、その後継ぎも命は短いだろう。王国の行く末が危ぶまれるのは目に見えていた。

片目だけの視界は不安定で、その不安定さが今の自分そのものを表している。我ながら良い例えだと口の端で笑った。こんな視界の悪さで今以上の国を作れる訳が無い。

悔しくても辛くても、泣きたくても嘆きたくても、そうする訳にはいかないのだ。目を逸らせば国は見えなくなる。涙で視界が揺らげば国は見えなくなる。座り込んでしまえば視界が悪くなる。嘆いている間に国は滅んでしまう。

片方しかない自分の目をしっかりと開いて、両足で立ち、全身全霊かけて国を治めなければいけないのだ。それがきっと、運命なのだから。

そう強く言い聞かせた。それが出来るのは自分しかいないと、その事実を痛いくらいに彼は知っている。

深く息を吸って目を閉じた。吐き出す息が震えているのが分かる。まだ心が少し乱れているからだろうか。何回か繰り返した深呼吸の中で、ふと脳裏に浮かんだ思い出があった。

目を覆っていた右手をゆっくりと下ろしていく。呼吸の乱れも無くなり、久しぶりに両目を開いた。

右目が微かにぼやけているが、確かに二つの目で見えている。いまこの瞬間は確かに自分の物だと言える。

サルスは体を起こし、再び歩きだした。前へと進む気持ち、それはすべて彼のプライドが原動力だった。

サルスが向かった先、それは騒ぎが静まった後の救護室。ざわめきの声は喜びの色に染められていた。

いつもと様子が違う事が部屋に入る前から分かるほどに空気が違っていた。


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