光の風 〈国王篇〉前編-6
サルスはただ淋しそうに笑っているだけだった。どこか遠い目で、消えてしまいそうだった。
はかない、そんな言葉が似合う。
「大臣にはオレから伝えよう。」
見兼ねたカルサが口を開いた。きっと何も事情を知らない人間の方が向こうも気が楽だろう、そんな思いが彼の目から伝わってくる。
「悪い。」
それが今のサルスにとって精一杯の言葉だった。ハワードの事を思うと胸が痛むのだろう、何よりナルの無念さを思っているのかもしれない。
しかしサルスを見つめるカルサの表情は冴えない。
「サルス、話がある。」
力強い声。場の雰囲気を変える声の調子にサルスは何かを感じ取った。
「良い話、じゃなさそうだな。」
視線をカルサと貴未、二人に送った。苦々しく微笑むサルスに二人は真顔で返す。貴未の視線がカルサに移った。それに促される様にサルスもカルサに視線を向けた。
それを機にカルサが口を開く。
「オレは国を出る。」
何も反応しなかった。しいて言うなら、目が少し大きく開いたくらいだろうか。カルサとサルスの視線はぶつかったまま、貴未はそれを黙って見守っている。
「サルス、王位継承者はお前しかいない。国を治めてほしい。」
カルサにしては珍しい言葉だった。まるで手を取り、強く握りながらお願いをしているような感覚。そんな風に人にものを頼む事は今までなかった。
それだけにカルサの思いが伝わってくる。
カルサの思いを受け入れるのに時間がかかったのか、しばらくしてサルスの沈黙が破られた。
「何の為に国を出る?この国が滅びてもいいのか?」
呆れているような、それは静かな怒りにも似ていた。苦々しい笑みが彼の感情を明らかにしていた。
「違う。この国を守る為に出ていくんだ。」
真っすぐに向けられた言葉。これが自分の決めた道であると、全身で訴えているようだった。
「理由は?」
サルスの声が低く響く。いつにない鋭い目付きでカルサを迎え入れる。
「今回の魔物襲撃の首謀者、大方予想は付いている。」
「御剣関係者、そう言いたいのか?」
「オレとリュナを封縛した赤い目の侵入者。おそらくあいつが仕向けた事だろう。」
あの嵐が吹き荒れる中、突如現れその存在を大いに知らしめた侵入者。その出来事は皆の心に深い傷跡として刻まれた。