光の風 〈国王篇〉前編-5
「死者、行方不明者か。」
カルサが小さく呟いた。
「どれくらい分かってんだ?」
「まだ大まかにしか把握していない。被害者は城外にもいるだろうから。」
貴未の質問に直ぐに返した。サルスの答えに納得し何度も頷く。横にいるカルサは浮かない顔をしていた。
「カルサ?」
カルサの様子に気付いたサルスは彼の名を呼んで理由を尋ねてみた。それに応えるように俯き加減だった視線をサルスに向ける。あまりにゆっくりとした動きに歯切れの悪さを感じた。
嫌な予感がした。
「死者について一名報告がある。」
「え?」
カルサの言葉はしっかり聞こえていた。しかし無意識に聞き返してしまう。この歯切れの悪さはきっと、その人が自分に近い人だからだ。それを瞬時に感じ取った。誰であって欲しくもないと心が即座に反応した結果だった。
「ナルが死んだ。」
サルスの鼓動が大きく、ゆっくりと身体中に響く。
意識の奥底、暗闇の中で誰かが不適な笑みを浮かべたような気がした。サルスは反射的に右手を口に当てた。身体の中にある何かを出さないようにするためか、溢れ出る恐怖に捕われないように舵を取る為か分からない。
次第に沸き上がってくる感情はナルを失った事を信じたくないという悲しみだった。首を何度も横に振り、身体で真実への拒否を続ける。
「ナルは今どこに?」
声が震えていた。
「遺体はない。光となって消えた。」
「何故?」
サルスの問いにカルサは首を横に振る。
「看取ったのか?」
「いや、オレが見た時はもう。」
全てを話さなくてもサルスには伝わった。誰に看取られる訳でもなく、ナルは目を閉じてしまったのだろう。こんなにも国に尽くし、自分達を支えてくれた母のような存在の人が何故こんな目に合わなければいけないのか。
ナルを想い現状を嘆く中、ふいに浮かんだ事があった。
「大臣に伝えないと。」
「大臣?」
「ハワード卿だ。」
サルスの言葉の意味がカルサには上手く伝わらない。訝しげな様子のカルサに付け足して話した。
「老大臣は昔、ナルと恋仲だったそうだ。」
あまりの衝撃の事実にカルサと貴未は少し間抜けな顔で口を開けたまま固まってしまった。そのあとにじわじわと沸いてくる妙な感じ。自分の母親の昔の恋愛を聞いている様で恥ずかしいような、むず痒いような、何とも言えない気分になった。自然と表情も青ざめ影を背負ってしまう。