光の風 〈国王篇〉前編-12
サルスの意識が戻ったのを確認すると安堵の笑みを浮かべ、そのまま倒れてしまった。彼女はおそらく意識のない間の自分を知っている。サルスはそれを聞きたかった。
しかし、理由はそれだけじゃない。本当は顔を見るだけでもいい、それだけで心が温かくなる。いつかのように温かい空気で包んでくれたら。サルスの中でレプリカは大きな存在になっていたのだ。
しかし彼女はカルサの下へと行ってしまった。まるで背を向けられたような気がして、孤独感や喪失感がサルスを襲う。
静かに泣くには感情が高ぶりすぎた。次第に声が漏れ始め、それを押し殺そうとすると余計に心は震える。
膝が崩れ顔は俯き、ただ泣き続けていた。窓にあてていた手は泣き崩れる自分から抵抗するようにそこから離れようとしなかった。
それはまるで、風に舞う国旗を掴むように伸ばし続けているよう。今の彼を支えているのは国を治めるのは自分しかいないという、誇りとプライドなのかもしれない。
「カルサ、このままじゃヤバイぞ。」
ナルの事を告げる為、カルサと貴未は大臣を探して城内を歩いていた。今まで沈黙を守っていた貴未の第一声にカルサは足を止めた。
「お前一人が悪役になって事が済むならいい。でも今回は理解者が必要だ。」
貴未はカルサと向かい合う位置に移動し、彼の目をしっかりと捕らえた。
「全部じゃなくてもいい。サルスには話した方がいいんじゃないか?」
カルサは視線を決して逸らさなかった。しかし何も答えないまま静かに時が過ぎていく。
「カルサ。」
促すように貴未が彼の名を呼ぶ。
「何かあったのか?言えよ、同盟違反だろ?」
それはまるで友達だろう、と言っているようにカルサには聞こえた。貴未の優しさがカルサの心を揺らす。貴未はカルサの様子がおかしいことに気付き、話を聞く方向に切り替えたのだった。
「貴未。」
丁寧に彼の名を呼ぶ。
「この国を潰してしまおうか。」
貴未の目が大きく開いた。何かの聞き間違いか、それでも目の前のカルサは真剣な顔付きをしている。カルサは決して冗談を言っている訳ではなかった。
しかしカルサの真意が分からない。貴未は伺うように目を細めた。
何かを感じたのだろう。貴未は鼻で笑った後、表情を隠すように手で顔を覆った。少し長めのため息は震えている。
「なんでいつも…腹が立つ。」
貴未の言葉に驚き表情を変えたが、その真意を感じ穏やかに微笑んだ。また自分の為に怒ってくれている、貴未の気持ちが嬉しかった。
「付き合うよ。」
再び向き合った貴未の目には力があった。
「国を壊したいんだったら、手伝ってやる。」
どこまでも付き合うよ、貴未はそう続けた。
彼の思いを大切に受けとめ、カルサは微笑むことで応える。窓の外、見上げれば国旗が風に揺れていた。
先に歩き出したのはカルサだった。