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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈国王篇〉前編-10

「サルスパペルト様!」

サルスに気付いた兵士が頭を下げた。サルスが来た事は波のように伝わり、サルスが部屋に入った時には全員が頭を下げていた。明らかにいつもと違う。

「怪我人がいないな。」

それがサルスの素直な感想だった。何人かベッドに横になっている者もいるが、その様子は子供が昼寝をしているように穏やかだった。他のベッドは綺麗に整頓されていた。

「何があった?」

一番近くにいた兵士にサルスは問いかけた。兵士は近寄り事のあらましを簡潔に伝える。

カルサの力、その結論が出た瞬間、一気に表情が変わった。それは近くにいた兵士が思わず身を退くほど冷たい表情。

サルスはベッドの上で眠っているエプレットに視線を合わせた。ゆっくりと近づいていく様子は奇妙な緊張感を周りに与える。誰もが彼に道を譲り、その行方を見守った。

しっかりとエプレットの顔が見える位置まで近付き、その目に焼き付ける。

「こいつが光玉を、ね。」

囁くように呟いた言葉は何故か響き渡った。思わず自分の耳を疑い、何人かが顔を上げた。今の声はいったい誰だと。

しかしさっきから変わらない冷たい表情のサルスを見ると認めずにはいられない。完全に見下した態度は近寄るものを許さなかった。

目を合わせるだけで咎められそうな、そんな恐さが滲み出ていた。しかし何かの拍子にサルスは態勢を崩し、支えを求めてベッドに手をついた。近くにいた兵士が様子を伺いに近付き手を差し伸べる。

それに対し手をかざす事で兵士の動きを止めた。大丈夫、問題ないと先に体で伝える。

「サルスパペルト様。」

「心配無い。それでは重傷患者を含め、全員が回復したという事だな。」

「はい、体力の回復を待ってみないと正確には言えませんが。」

兵士は遠慮がちにサルスの問いに答えた。声からだろうか、何かサルスの様子がまた違ったように感じる。

そうか、と呟き顔を上げた時には、いつものサルスに戻っていた。しかし顔色は悪い。

「サルスパペルト様、お休みになられた方が。」

思わず兵士の口から心配の声が漏れた。サルスの視線は自然と兵士に向くが、その瞬間兵士は言葉を詰まらせ頭を下げた。さっきまでの印象が強すぎて恐怖感が彼を縛ってしまう。

「ご無礼をお許し下さい!」

兵士が必死に謝る姿は周りには理解できた。もし自分がその立場なら同じ事をしただろう。寸分のミスもズレも無駄も許さない、隙の無い恐さがあった。

サルスが少し動くだけでも兵士や女官達は脅える程、空気が違っていたのだ。サルスは体を起こし、深呼吸をした。


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