香-5
「出るかなー…時間ギリだし………………あっ、もしもしお疲れ様です、広神です。…あっ、鷹丸?うん。今は鷹丸だけ?あっ、マジ?あーあのさ、武弘さんいる?変わってほしいんだけど」
鷹丸くんに武弘さんって……ショップに電話してるんだ。
でも何で?
「あっ、もしもしお疲れ様です、広神です。…はい、はい。あのですね、この前の雑誌撮影の件、どうにか日にちを変更していただけませんでしょうか?はい…どうしても外せない急用が入ってしまいまして…申し訳ございません…はい、はい。その前日でしたら…、はい、はい。…あっ、ありがとうございます!はい!分かりました…はい!ありがとうございます!はい!失礼します!………ふーっ……」
「…義斗?」
「この前の約束、覚えてる?」
「え?あぁ、デートするって…でも義斗は仕事で…」
「あれ、行ける。日にち変えてもらったから」
「えっ……いいの?」
「うん。武弘さんに話したら、その前の日に撮影することにしてもらったからさ。だから行けるよ」
「義斗…」
「いやー…武弘さん、やっぱちょっとおっかなかったわー…。逆に最初に鷹丸が出てくれてよかった…」
「義斗……ありがとう…」
「ん?あぁ。まぁまたキレて出て行かれたらたまったもんじゃないし」
「…根に持ってる…?」
「こんな綺麗なお嬢さん逃がしたら次は無さそうだからさ」
「もぅっ…」
「…慧、大好きだよ」
「……私も、義斗のこと大好き」
抱き合った私達を、あの香りが優しく包み込んでくれた。
義斗の温もりもこの香りも、もう離さない…。
夜、私は包まれて眠った。
義斗と、“MOON”に…。