香-4
「……おわっ!慧!なんだよおぃ…」
「来ちゃった…」
「連絡くらいしろよ…マジびびったんだけど…」
「ごめん…。あ、どこか行くつもりだったの?」
「あ、タバコをね。コンビニまで。てかとりあえず部屋で待ってろって…すぐ戻ってくるから」
「うん…ごめんね…」
部屋に入ると、懐かしい香りがした。
これは…“MIST”だ。
ということは、ご飯を食べた後だね…。
その5分後、義斗は戻ってきた。
私の好きな缶コーヒーも買って。
「はい、これ」
「あ…ありがとう…」
「で、急にどうした?今まで散々シカトしてたくせに…」
「あ…あのね………お香…」
「お香?」
「うん……道歩いてたらね、“MOON”の香りがしてきてね…だから、戻って来ちゃったの…」
「どゆこと?」
「自分でも分かんないけど…あの匂い嗅いだら義斗との色んなこと思い出して…急に切なくなって…」
「…」
「義斗、ごめんね…。やっぱり私、義斗がいなきゃダメだよ…」
「慧…」
「私、もう我が儘言わないから…だからね、義斗のとこに戻っても良いかな…?」
「…そもそも別れてないじゃん。俺の隣は慧専用のままだったから」
「義斗…」
「お帰り、慧」
優しく、義斗に包まれた。
久しぶりの、温もり。
途端に私は泣きじゃくった。
義斗の暖かさが、優しさが、声が、笑顔が、その全てが、掛け替えのないものだと気付いて…。
私が泣き止むのを待って、義斗はおもむろに携帯で電話をかけた。