香-3
「でさ、この前やっと欲しかったジャケット買えたんだよねー。ちょっと高かったんだけど。調度今着てるんだけど、どうかな?」
「えっ…あー…」
ダサっ…高校生かよ…。
義斗の店行って勉強してこい!
…とは言えず。
「えーっと、似合ってると思いますよ…」
「ほんと?良かったー。そういえば丁さんの元カレって、アパレルなんだっけ?」
「あぁ、はい……」
元カレ?
喧嘩したとは言ったけど…。
あれ…でも…別れたも同然なのかな…。
「やっぱり丁さんはさ、お洒落な男性が好きなの?」
「え…別に…そんなことないです…」
「そっかぁ。しかし元カレも馬鹿だよなぁ。丁さんみたいな美人、そうそういないのに」
イラッときた。
さっきから義斗のこと“元”って連発するし、馬鹿とか言うし…。
義斗はあんたみたいな馬鹿とは違う…。
と、その時。
夜になったら道端に出て来る露店の前をたまたま通った瞬間。
あの香りが漂ってきた。
義斗が一番好きだと言っていた、“MOON”の香り。
その露店はお香を格安で販売しているらしく、私は足を止めて見入ってしまった。
頭の中は、香りと連結された義斗との思い出で一杯…。
「丁さん?」
「あ…あの、すいません、急に用事思い出して…食事、行けません!失礼します!」
「えっ?あっ、ちょっと…!」
気付くと私は神谷さんを残して一目散に走り出し、いつの間にか義斗の部屋の前に来ていた。
チャイムを鳴らすかどうか迷っていたら…ドアが開いた。