『Summer Night's Dream』その1-6
「で?」
溜め息というのは厄介なもので、床に付いたガムの様にモヤモヤした気持ちを吐き出すついでに、愚痴やら悩みやら関係のない事までついつい喋ってしまう。真っ昼間のくせに薄暗いのは視聴覚室からかっぱらってきたカーテンのせいだろう。机の上には蝋燭が二本立てられている。だが、これは単なる雰囲気作りの為に部長が買ってきたオモチャだ。火の代わりに明かりがつくようになっているから、火事の心配はない。
壁にはどこの土産なのかも分からないペナントが貼られており、床にはイタズラ書きとしか思えない丸い円がチョークの線に沿って描かれていた。
部屋のあちこちに段ボールが散乱しており、得体の知れない何かがびっしりと詰まっている。
陽介が中身を知らないのは、そのほとんどが部長の私物だからだ。
「それで?その後はどうなったんだ、日向」
「別にどうもしませんよ、見るべきものもなかったし、特に怪しい所もなかったんで、適当に切り上げて帰りました」
「なんだ、つまらん」
それまで前のめりになって聞いていた水嶋が、溜め息をついて組んでいた手を後ろに回した。
溜め息をつきたいのはこっちの方だ。
結局、昨日は帰りが遅かったせいか親に叱られる羽目になって、まさかのメシ抜きにされて、夏休みの宿題が追い討ちをかけてきて、泣きそうになりながら夜食のカップヌードルにお湯を注ぎ徹夜したのだ。
当然のように遅刻した陽介を捕まえて、事後報告しにこいと水嶋が言ってきたのが昼休みのことだった。
「ただ、気になるな、その女」
水嶋の目つきが、ギロリと変わった。それまで口にしていたコロッケパンをごくりと飲み干し、
「本庄さくらとか言ったか、確か」
「はい」
「他には何も聞かなかったのか?」
「聞くって、何を?」
「どこに住んでいるのか。学年とクラスは。こんな夜更けに何をやっていたのか。普段はどこに遊びに行くのか。暇だったら今度部室に遊びにおいでよ。
心霊現象とかって興味ある?」
最後のほうが何故か勧誘になっていた。
――そんな事言われたってねえ、アソコすげー暗いんすよ。雰囲気もなんか穏やかじゃないし、ものの10分っすね、居れて。
そんな文句が頭の中に浮かんだが、止めておいた。
下手に反論したら「お前それでも超研部員か」とか「キ○タマ付いてんのか」とかそんなしっぺ返しを喰らうに決まってるからだ。
それなのにこの人ときたら、いざ取材となったら陽介にばかり振ってくる。なぜならこの人、暗所恐怖症なのだ。
僕の貴重な夏休みを返せ。