『Summer Night's Dream』その1-2
「ねえ」
そこで陽介の思考は停止した。今日の夕飯が5日連続で素麺の新記録になりそうだとか、関係のない思いだけが糸を引いていく残照のように残った。
夜の資料室に、ヒトがいたのだ。
構えたままのデジカメが、ごとりと音を立てて床に転げ落ちた。
女の子だった。
目をまん丸く見開いて、陽介は宇宙人でもみたかのような顔で女の子を注視した。
時刻は8時45分。
そして、現実に引き戻されたかのように女の子がゆっくりと口を開いた。
「…あなた、もしかして資料室の幽霊?」
きっかけは、七月二十日。
今を遡ること1ヶ月前の放課後だった。
池田高校の部室棟の隅っこに、日向陽介は呼び出されていた。
プレハブの建物の外には『超常現象研究会』と書かれた小さな立て看板が打ち付けられている。
超常現象研究会、略して超研とは、言ってしまえばいわゆるオカルトである。
出始めはUFOからはては西洋魔術まで、実に守備範囲の広い部活動である。
超研という名前も、そもそもオカルトと言う言葉に抵抗を示した部長が勝手に変えてしまっただけで、一般ピーポーからすればどっちでも取っつきにくいことに変わりはない。
部員は全部で三人。
部長と陽介と、それと幽霊部員が一人。
オカルト部の幽霊部員だからといって本当に死んでいる訳ではない。
やる気がないだけである。
三年一組、出席番号三十一番、水嶋信二部長の鶴の一声で陽介は今、ここにいる。
「まずは、これを見てほしい」
そう言って水嶋部長が取り出したのは一枚の写真だった。
「何ですか、このピントの合ってない写真」
その通り、と部長が息巻く。
「良いところに気がついたな、日向。さすがは次期部長の座を狙ってる男」
狙ってません、と陽介は首を全力で横に振った。
だが、水嶋は意にも介さず制服の胸ポケットからアメを取り出すとこっちに向けて放った。
駄菓子屋で十円くらいでばら売りしてるヤツだ。
水嶋は部の活動に貢献したり、適切な意見を発言した者に対してこうしてアメを与える。
今日びの高校生にそんなもんが通用すると思っているのだから、スゴい男である。