想-white&black-H-8
麻斗さんの言うとおり屋敷内は手薄になっていた。
元々楓さんがあまり多くの人間を側に置きたがらないことも幸いしたのだろう。
さすがにエントランスから堂々と出るのは無理が過ぎるため、出入りが少なく、すぐ庭に出られる窓がある部屋に忍び込む。
念のため部屋のドアを内側から鍵をかけてから窓を開けて庭に降り立った。
『楓ん家の庭にはごく限られた奴しか知らない獣道みたいなのがあるんだ。そこからなら割と容易に外へ出られるはずだよ』
麻斗さんが教えてくれた場所から探してみると、確かに林のように木々が生い茂っている広い庭の中に人一人がようやく通れるほどの細い道があった。
夜になり真っ暗な道を歩くのは正直怖かったが、ここまで来て引き返すこともできない。
何よりいつか楓さんに恋人ができた時のことを考えると千切れそうに痛い。
この傷が深く、手遅れになる前に離れよう。
(これでいいんだよね……)
一度屋敷の方に振り向き、その光景を目に焼き付けるとそれを振り払うように外へと通じる道を走り出した。