想-white&black-H-7
『そこにいるのが辛いんなら、俺の所に来いよ』
「え……っ?」
切り出された言葉に声を失った。
麻斗さんは今何て言った?
何も言えずにいる私に麻斗さんが続ける。
『自分の気持ちに気付いたんじゃないのか? なら今の内に楓からは離れた方がいい。昨日も言ったけどそのまま一緒にいればいるほど傷は深くなる。そうなる前に楓から離れるんだ』
「で、でも私は……」
麻斗さんの言いたいことは分かる、だがだからと言ってすぐにどうこうできない。
まだ自分の気持ちの整理すらついていないのだから。
「気持ちは嬉しいけど、そんなこと急には無理です」
『ならこのまま楓の側にいて好きなようにされて、いざあいつが結婚する時どうすんの? 笑って祝福してやれる訳?』
「それ、は……」
言葉につまる私に更にたたみかけてくる。
「英の家が普通とは違うこと分かってるだろ。もし楓が花音のことを好きになったとしても結ばれることは難しいし、第一いつまでもそこにいれるわけじゃない。いつかは出て行かなきゃならない日が来る。花音の存在が枷になることだって……」
「分かってます。それはちゃんと分かってるつもりです」
『そっか』
「……私は、どうすればいいんですか」
『花音、君は本当にいい子だよ』
麻斗さんがふっと微笑む。
だが私は携帯を握り締める手が、話す唇が震えていた。
私は楓さんのもとにこれ以上いられない。
私の存在が楓さんにとって邪魔になりかねないことも、いつか彼が結婚する姿を目にするのも辛い。
きっと今ならまだ傷が浅くてすむ。
自分の気持ちにまだ迷いがある今なら……。
それから麻斗さんは電話でこれからの行動を指示してくれた。
楓さんの屋敷に昔から自由に出入りしているだけあって、構造や抜け道をよく知っている。
『動くなら早い方がいいな。今は花菱のお嬢が来ているんだろ。なら人手はそっちに取られてるはずだから目がないうちにしよう。衣服とかの心配はいらないから必要なものだけ持ってきな』
そう言われ、素早く携帯と母から譲り受けたネックレスだけを手に部屋を出た。