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男性には向かない職業
【純文学 その他小説】

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男性には向かない職業-2

02

 ある日、産婦人科にまだ十八歳にも満たない少女が母親と一緒にやってきた。
 診察室に入るなり、母親が医者の全体像をなめ回すように見て『フン』と小さく鼻を鳴らした。少女は薄いピンクのフレアスカートにパーカーを羽織っていた。初めて産婦人科に来るのだろう、視線が定まらずオドオドして見えた。
 うん、そりゃあ怖いよね……。何されるのかわからない。突然脱げって言われるかもしれない。陰部に触られるかもしれない。触診する医者が男なんて考えたくもない。
「今日は、どうなされましたか?」
 山本先生がカルテをのぞき込んでから、少女を見た。カルテに書いてあるのに『何の為に来たか』って聞くなんて、意地が悪い。
「この子……妊娠してしまったんです。それで、堕ろしたくって」と少女が口を開く前に母親が言った。「そうですか」と山本先生は少女から視線を外さずに頷いた。
「この子は高校生だし、子供を産むにはまだ早いでしょ? 学校にバレたら退学になってしまうし。だから、二人で話し合ってここへ来ることにしたんです。……そうでしょ?」
 母親が凄むと、少女はぴくんと肩を揺らして頷いた。先生はカルテにペンを走らせながら母親の話しを聞いた。
 私は心の中だけで『だったら男にコンドームくらい着けさせろ!』と罵倒したけど、それを顔には出しはしない。
 この子にも生活があって、家族がいて、先生がいて、友達がいて……彼氏がいる。
 私の目の前を通り過ぎていく患者さんAでしかないけど、この子にも色んなバックボーンがあって、今回の堕胎について色々と悩みに悩んだんだろうなぁ。
 ファンデを厚く塗って隠してはいるけど、少女の目の下に大きなクマがあるのがわかった。
 ……なんとな〜く、気が重い。
 彼女はこれからよく知りもしない、好きでもない出頭医の男の前で子供を産むためではなく、堕ろす為に股を開く。
 そして中を見せる。
 奥、深くまで。
 私は学校でスラックスを履いたまま手術台の上に股を広げて乗った経験があるけど、下を履いているのに、顔が燃えるくらい熱くなった。
 この子は……ぜ、全部見せなきゃいけないんだよねぇ。
 彼女の状況を自分に当てはめると、非常に気が滅入る。
 う〜。言葉なく俯く少女を見ていたら、なんだかこの子に種を植え付けた男を殴り飛ばしたくなってきた……。
 男は女を性欲の掃きだめとしか思っていないの? 気持ちよければそれでいいの?
 彼女の今後の人生とか、手術費用とか、子供が産めなくなる可能性があるっていうことを、知ってるのかな。
 ……すっごい、ムカつく。
 手術日が決まり彼女らが退出すると「ムカついても顔に出すな」と先輩にお尻を蹴られた。
 どうして分かったんだろう。顔には出してなかったのになぁ。
 私はお尻をさすりながら、退出した少女に思いを馳せる。
 その少女は私にとって、初めて担当する人工中絶の患者となった。

 少女は身ごもってからまだ十週も経っていなかった。
 癌治療じゃないけど、発見が早くて良かったと思う。
 発見が遅いと、堕胎する少女の体に大きな負担がかかってしまう。それにほら、二十週付近になると出てくる赤ちゃんの形が……しっかりとした赤ちゃんなんですよ!? ガクガク。
 十二週くらいまでは自然流産という手もあったけど、担当医はその選択肢を挙げなかった。
 ……なんでだろう?


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